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花咲いて

その話を聞いて、本家の惚けていると思われている一族最高齢の婆さまが目をカッと見開いた後、いつもの奇行に戻った。皆、惚けているからと気にもしなかった。
庭にあるでかくて昔からある木には花が咲いた事がない。その木に蕾が付いていると庭の手入れをしている分家のおじさんが珍しそうに言って茶をすすっていた時の話だ。本家当主である僕の父はいつも通り無表情だ。

大婆さまは相変わらずだな。空になった湯呑茶碗を両手で包みこんで、ほぅとひと息つくとご馳走様と茶碗を丁寧においた。おじさんは父に一礼して、また、庭に戻り剪定を始めた。

お前にも伝えないといけないな。本家当主にだけ伝える話だ。無表情でも瞳の奥は優しい光を持っている事を僕は知っている。だが、その前に兄貴がいる。当主は兄貴がなるだろう?争いの種にならないように僕は就職したら家を出ることにしていた。二つ上の兄貴は病弱だが、頭は切れるし何より指導力が高い。
不思議そうにしていると父は黙って庭の話題の木を見た。威厳があると思うというより怖かった。見られている。悪さも悪意も何もかも、だから、良心に背く事は出来なかった。
父が言う。木が選ぶのだ。誰が当主に相応しいか。見ているのだ。生まれる時から。当主は一族を守るだけでない。生かされているその地も守る。わかるか?今まだ…だな。花が咲けばわかる。
そう言うと書斎へ戻って行く。
僕は3人分の茶碗と急須を片付けると控えていた係を呼んで持って行かせた。

数日後、大騒ぎになった。
兄貴があの木の根元で息絶えていたからだ。
父は兄貴を優しく抱き上げた。兄貴は穏やかな顔をしていた。
木がこの子を次の当主を守る者と決めたのだ。お前は正しい事をするが、優しすぎる。兄に学べ。
花が咲いて実を結ぶ為に。

7/24/2024, 2:31:23 AM