もんぷ

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子供のままで

 自分がまだ生まれてもいない頃に、この自分と背丈が変わらない人間が息をして、それから自分と出会うまで生き続けてくれていたと思うととても言い表し難い感情が溢れる。ソファに横に座っている距離を詰めて、じっと顔を見つめる。どうしたの、なんて苦笑するその下がる眉毛を観察しながら無言。だって、そのまま伝えたってきっと笑われるし、まともに受け取ってくれないだろう。自分が生まれてもいない頃に、綺麗な幼稚園教諭でさっさと初恋を済ませてしまった彼を恨めしく見つめる。
 近所の遊んでくれるお兄ちゃんはいつの間にか憧れの人になって、忙しくて遊んでくれないお兄さんになって、そのいつの間にか追いついた小さい背丈さえ愛してやろうと思わせてくれる特別な人間になった。しかし、いつまで経っても彼にとっての自分は子供のままらしい。その恩恵にあずかってちゃっかり甘えちゃう時だってあるけども、いい加減自覚してほしいのだ。お前がかわいがっている目の前の人間はもうすっかり成人した大人なのだと。ただ、それを理解させるのも怖いのだ。自分が大人だと分かってしまって、もし興味を無くされたら?他にかわいがるべき対象の若くてかわいくて素直な子が現れたら?いくら歳上の綺麗なお姉様好きの彼だって、例外が目の前にいるのだから靡かないとは言い切れない。ただ、一生その例外が自分だけであってほしいと言うのは、まだ自分を子供だと思っている彼にとってかわいい我儘で済むだろうか。子供扱いされるのは癪だが、かわいいかわいい子供のふりをしてうっかり取り返しのつかない約束をさせてやろう。
「ねぇ、一生のお願いがあるんだけど。」
子供じみたその口調に彼は愛おしそうに笑い、優しい目で自分の言葉を待った。一生のお願いなんだから、断るのは無しね。

5/13/2026, 10:22:02 AM