となり

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『ショートケーキ論争』

「ショートケーキのいちごを最後までとっておく人とは仲良くなれると思う」
 突然そんなことを言い出した友人は、今まさに口いっぱいにショートケーキの最後の苺を頬張り、美味しそうに舌鼓を打っている。
「いきなりなに」
「んー、なんか食べてて思った。ショートケーキの上の大きないちごって特別じゃない?」
「まあ、そうかも」
「一番最後までとっておくのは、大事だと思った物を最後まで大事にする人かなって」
「それって、ショートケーキの苺が大事じゃない人は?」
「どういうこと?」
「上に置かれた苺を特別だと思っていない人。むしろ生クリームやスポンジが好きだ、って人には通用しないんじゃないかな」
「そんな人いるの!?」
「大声出さない」
「あっ、ごめん」
 思わず立ち上がった彼女は再び大人しく席に座る。
 ショパンの「雨だれ」が流れる落ち着いた店内の人気はまばらで、吸音性の高い壁を使っているらしくそこまで声は響かなかったみたいだ。周りの人々は変わらずそれぞれの会話に花を咲かせている。
「ショートケーキの上のいちごが好きじゃないのに、ショートケーキを選んで食べるの?」
「ショートケーキそのものが好きで食べる人もそりゃいるでしょうよ」
「え〜〜わかんない、わかんないよ……」
 ケーキを食べ終え頭を抱える彼女の真向かいで、私はまだ温かい紅茶を飲んで一息つく。カチャリ、と皿にカップを置いて言葉を続けた。
「苺が特別だと思わない人にとってその常識は当てはまらないよ」
「世界共通じゃないんだ」
「人によって常識は変わるってこと」
「なんか悲しい」
「それを悲しいと思う気持ちが、あなたらしさを作っているんだからいいじゃない」
「なにそれ。下手な慰め?」
「違う。主観的なものの見方」
「難しい言い方されてもわかんない。もっとわかるように言って」
「だーかーら。私はショートケーキの苺を最後に食べるよ」
「やっぱりそうじゃん! 大好き!」
「はいはい。私も大好き」

3/7/2025, 7:48:26 PM