美佐野

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(木漏れ日の跡)(二次創作)

 カラスバがセイカを見かけたのは完全に偶然だった。
 断っておくと、彼女の動向は常に判るようにしている。スマホロトムにはセイカの位置情報が絶えず送られてくるし、その気になれば盗聴も可能だ。だがカラスバはそれを、必要な時以外は閲覧・取得しないようにしているだけだ。そういう理由で、今日彼女と会えたのは純粋に幸運だった。
「こらよう寝てはるわ」
 連れていたロズレイドが、起こすか?と言いたげな目でこちらを見る。セイカはベンチに深く身体を預けたまま、くうくうと熟睡していた。木漏れ日の跡が優しく揺れている。足元には彼女の相棒のオーダイルが眠っている。片目は空いているため、緊急事態にもすぐ対応できるだろう。どのみち、この街で彼女のポケモンを下してなお、彼女に危害を与えられる人間など存在しないのだ。
「……まあ、ええか」
 次の予定まではまだ時間がある。カラスバはセイカの隣にすっと腰を下ろした。ビルとビルの間にあるこのスペースは、セイカ曰く、イーブイがよく出没するポイントだ。イーブイの進化系を全種類鍛えたいと話していた。もしかしたら数匹既に育成中かもしれない。
 人気は殆どなく、静かな時間が流れている。
 昼はポケモンの育成・捕獲や人々からの頼まれごと、夜はロワイヤルと忙しくしているセイカを思う。せめてホテルで寝てくれと思うが、外泊が長く続くようなら直接セイカを捕まえホテルに送り返せば済む話だ。
「こんなところにおいででしたか」
 ジプソがやってくる。セイカの姿を認め、声量を落とした。
「次の予定がございますが」
「固いこと言うなや。まだええやろ?」
「少しぐらいなら……」
 住む世界の異なるこの娘と、かりそめとはいえ隣に並ぶ時間は貴重なものだ。更に10分ほど過ごしてから、カラスバはゆっくりと立ち上がった。
「オマエから飛び込んでくるんは歓迎や。……待っとるからな」
 相変わらず寝こけている主と対照的に、両目開いたオーダイルは静かにカラスバを睨み付けた。

11/15/2025, 11:30:27 PM