川柳えむ

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 ある朝、目が覚めたら、小指の先に赤い糸が繋がっているのが見えた。
 これは運命の人と繋がっているというあの赤い糸なのだろうか。
 糸を手繰って外へ出てみる。
 いろんな人の小指の先に、誰かとの赤い糸が括り付けられていた。
 赤い糸で結ばれて幸せそうな人、赤い糸の先がすぐ傍にあるのに気付いていない人、二人並んで楽しそうにしているのにそれぞれ別の赤い糸が結ばれている人、赤い糸の先が切れてしまっている人……。
 私の赤い糸の先には誰がいるのだろうか?
 ドキドキしながら向かうと、なんと糸の先は異空間に繋がっていた。絵の具のパレットを無理やりかき混ぜたような混沌とした色彩の渦が宙に浮かんでおり、そこに糸が飲み込まれている。
 こんな非現実的なことがあるだろうか?
 しかし、赤い糸が見えている時点で非現実的なので、もうそんなことは気にせず渦に入っていくことにした。
 渦の先は、未来だった。少し先の未来。
 そこに、彼はいた。お互いに、一目見てわかった。この人が運命の人だと。
 こうして私はしばらく未来にいた。
 彼は私を心配してくれた。帰らなくていいのかと。でも、帰ってしまったら、再び彼に会えるかどうかわからない。それに、帰り方もわからない。
 そうこうしているうちに、世界に危機が訪れた。致死率の高い未知の病原菌が流行したのだ。
 そのタイミングで、あの異空間へ繋がる渦が現れた。これに入れば過去に戻れるかもしれない。
 私は彼に一緒に行こうと言った。しかし、彼は行けないと言う。病気に感染してしまった。だから、一緒に行くことはできない。君はこうなる前に早く逃げてくれと。
 泣きながら未来を後にする。戻ってくると、赤い糸は見えなくなっていた。
 それでも私は待っている。きっとまだ繋がっている、あの人と再び逢える日を。


『時を繋ぐ糸』

11/27/2025, 12:13:58 AM