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 空に模様を描くのは、神様見習いの二人の仕事だ。彼らは空をキャンバスに、自由に絵を描く。
 時には澄んだ薄い薄い蒼を幾重にも重ね、時には重たい鉛色の雲を散らし、時には真綿のような入道雲を浮かべ。
 そうして、好きなように季節を彩るのだ。

 しかし彼らは、己の仕事に飽いていた。
 好きに彩れと言われても、バリエーションには限度があるのだ。
 空を見上げた人間に「この雲、前も見た」と思われるかもしれない。でももう、パターンは出し尽くした。

「もうさー、どっちの描いた絵がバズるかとかやらね?」
 言い出した片方に、やはり仕事に飽き飽きしていたもう片方も「あー、いいかも」と頷いた。

 ソフトクリーム型、くまちゃん型などの雲を浮かべ、「これは結構、好評なんじゃね?」と自信満々でもう片方を見た見習いは、悔しそうに眉を寄せた。
 何故なら、彼の相方が笑顔で空に描いていた模様は、これが嫌いな小学生男子はきっと居ないと思われる『う◯こ』だったのだ。
 その隣には、やはり小学生男子なら爆笑間違い無しの『男性の(センシティブ自主規制)』が並んでいる。

「イヤ、まじでダメだろ、センシティブは!」
「何でよ? 何がダメよ?」
「そんなん笑うに決まってんじゃん! 卑怯じゃん!」
 そんな言い合いをしつつも、彼らは次々と空に『作品』を描きあげていく。

 ……結果として、クマちゃん雲は大いにバズった。そしてそれ以上に、センシティブ雲がバズりにバズった。

 その日の夜、彼らは上司である神様からこっ酷く叱られ、翌日の空は雨模様となったのだった。


  お題『空模様』

8/19/2024, 5:56:27 PM