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紅茶の香り

私の家では毎日楽しみにしていることがある。それは、いつも一緒に住んでいる彼が淹れてくれる紅茶を楽しみながら、今日あったことを話すこと。

私が仕事から家へ帰ると、彼はいつも優しい笑顔で私を出迎えてくれる。そんな彼に答えたくて、いつも私は笑顔で同じことを言う。
「ただいま、!」
そうすると、彼は包み込むような優しい声で「おかえりなさい。」と言ってくれる。この声が聞けるだけで私はとても幸せだ。仕事でどんなに怒られたとしても、どんなにミスをしても彼の前だと疲れが一気に吹き飛ぶような気がする。
「茶葉、新しいのが入ったんです。飲みますか?」
「うん。飲みたいな、お願いしてもいい?」
「もちろん。」
そうすると、彼は手馴れた手つきで上品に紅茶を淹れてくれる。毎日見ているのに、毎回すごいなぁと感心してしまう。そう思っていると、もう紅茶の準備が整ったようだ。
「さぁ、召し上がれ。良かったら今日、マドレーヌが手に入りましたから良かったらどうぞ。」
「わぁ、ありがとう!いただきます。」
綺麗な花柄のカップを口に運ぶ、優しくて深い香りだ。とっても美味しくて落ち着く。二人で静かに紅茶を嗜んでいると彼が口を開いた。
「最近、お仕事は順調ですか?」
彼は私をまっすぐ見つめて聞いてきた、その顔は少し心配しているようだった。実は最近、仕事が上手くいかなくて上司に怒られてばかりの毎日だ。同僚とも上手くいかず、あの雰囲気に飲まれるのが怖くて怖くて仕方がなかった。だけど彼には心配させたくなくて…、彼を安心させたくて。
「まぁ、普通かな、!」
そう言ってしまった。
「本当に?」
「うん、本当だよ!」
「…そうですか。」
彼は黙って紅茶を飲む。私も彼につられて紅茶を飲んだ。
すると彼はカップを静かに置いて、ゆっくりと私にこう言った。
「無理…しないで。」
「え、?」
驚いた。いつも敬語で上品な彼が少し震えた声でこういうから。
「最近、なにかあったのですか?最近、疲れているように見えるので…。」
私は、何も答えられなかった。話したら楽しい時間か終わってしまうと思ったのと、仕事の時の状況がフラッシュバックしてきて涙をこらえるのに必死だったから。すると、彼は私にこう話しかけてくれた。
「私には素を見せて下さい。……私は、あなたの力になるほど嬉しいことはないのですから。」
私は彼を安心させたくていままでずっと、笑顔を作っていた。けれど、それは違ったみたいだ。彼に嘘はつけれなかった。
「実は…」
本当は秘密にしておこうと思った。彼との紅茶の時間は楽しい時間でありたかったから。だけど、その日私は仕事での悩みを彼に全部伝えた。気付くと私は気持ちが溢れ出して涙をこぼしながら…。それでも彼は黙って頷いて話を聞いてくれた。彼は私の話が終わると、こう言った。
「辛かったですね…。本当にあなたはよく頑張りました。私はいつもあなたの味方ですよ。いつでも相談にのりますからね。」
彼は優しく、でも真剣に話してくれた。
「…ありがとう。」
私は色んな気持ちを込めて、その一言を頑張って伝えた。
紅茶はもうぬるくなってしまっている。だけど、優しくて深い香りはいつまでも私を包み込んでくれていた。
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10/28/2024, 4:01:25 AM