お題:月に願いを
「届きましたよ」
狩りから帰ってくると、配達員から受け取った文は外界に出ている同僚からの定期連絡。
礼を言って家に戻り、封をあけると飾り気のない便箋にお決まりの挨拶から始まり、近況が淡々と綴られている。
なんとも、同僚らしいと思わず笑った。
同僚が外界に出て2年が経過する。
同僚のように各地を転々とできる者が少ない故に、外界の情報を知りたい者からかなり重宝されているようで、行く先々で何かしらを頼まれているようだった。
元来、一つの場所にあまり長居したがらない気質であるので、同僚にとっては苦ではなく、寧ろ楽しんでいるようだった。
そのため、いつ同僚が帰ってくるかもさたかではない。
手紙が届くまでにタイムラグがあるので、未だ送ってきた先に滞在しているかも分からず、結果としてこちらから返事を返せた試しがない。
同僚としては生存確認のためのもので、もとより返事を期待してのものではないので全く気にしていないようだが。
読み終わった手紙を机の引出にしまい、空を見る。
家に帰ってきたときより高い位置に月が見えた。
本日は見事な満月だ。
同僚いわく、行く先々で気候はもちろん、空に見える星座の位置や、そもそも見えるかどうかも変わるが、太陽と月はどこへ行っても変わらないのだという。
それを聞いたのは随分と昔の話で、それからというもの、月に対して同僚の無事を願うことが日課になっていた。
神や仏を信じるような質ではないけれど、願わずにはいられなかった。
それと同時に、同僚がどこへ行っても帰る場所はここであると定めたこの地を、必ず守り、そして「おかえり」と必ず迎えるのだと、誓う。
5/26/2023, 1:09:50 PM