粥井

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雨が降り出しそうな時、いつも同じ匂いがする。
懐かしくて、どこか寂しいような。

雨男だと自覚したのは、小学生の頃だった。
楽しみな行事の日はたいてい雨で、まれに見る不運な学年だと言われていたらしい。

雨が降っていると、バスは遅れてやってくる。しかも、ここのバス停には屋根がない。
『いやー、降りましたね』
『雨といえば、降る前は鳥が低く飛ぶそうで』

なんなんだ、この男は。大雨の中、傘越しに話しかけられているこの状況は。
『私、晴れ男なんですよ』
『雨男は雨に降られることが多い人じゃないですか。私は、雨上がりを見ることが多いんです』
「それは雨上がり男では?」
しまった。間を埋めてしまった。

『雨が上がるって、晴れるってことでしょ?』 雨か晴れか、ゼロヒャク思考なのか?
「曇りのままのこともありますよね」
本当の晴れ男は、曇りを晴れにする人――。

『曇りかー、盲点でした』
『小さい頃に骨折して学校休んだことがあって。1週間くらいかな。戻ったら久々に長雨が止んで、凄いね晴れ男だねって。そこから何十年も自分は晴れ男なんだって思ってました』
「でも、晴れ男がいないから雨が降ってたってことなんですかね」
『まあ梅雨の時期だったんで、次の日はまた雨だったんですけどね』
……それは雨上がり男だろ。

『お、晴れ…いや、雨上がってきましたよ』
「ほんとだ、鳥も飛べますかね」
――高くなくても、飛べたら何でもいいか。
『鳥も飛べるし、雨上がり特有の匂いがあります』
雨上がり特有の…。雨が降る前の匂いとは違うんだろうか。


『バス、来ませんね』
「晴れたことだし、歩きましょうか」

10/20/2024, 4:56:33 PM