寸栗睦栗

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「小さな命」

思い出すのは歪な深爪、温かい布団、そして母の背。
多分、ずっと昔。けれど、おそらくたかが数年。
——寒い日は人肌が恋しくなる。それはあのたった1日の、夢か現かさえ判断の出来ない朧げな、それでも生きていた中で最も幸福な時間があったからだろうか。
あの時、私は暖房器具の前で眠りこけていた。母のすぐそばで、ふと眠ったまま意識が浮上し、微かに母が優しく声をかけたのを聞いたのだ。贅沢な場所で眠ってる、なんて。意識が落ちる前はなかった温かな布団が、私への愛情を確かに形にしてくれた。
今は、如何なのだろうか。嫌いで、嫌いで、嫌いで、嫌いで、愚かなあの人が居なくとも暖房器具は付き、布団に包まれる。だけど、子供じみた思いが心を冷やしている。いつまでも、いつまでも、この小さいままの命を抱えている。

2/24/2024, 1:42:07 PM