一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・『静寂に包まれた部屋』会議

 イメージカラーは白だな。
「やっぱ、イメージは繭ですかね?」
 後輩の問いかけに私は同意した。「うん、角っぽいものは避けたいね」
 素材は、オーガンジーとワタ。前回使ったトレーシングペーパーは、ちょっとイメージ違うかぁ。
「じゃあ、小道具の机の角とかも包もう」と小道具担当。
「イイね。舞台床も見えないようにしたいな。硬質的だし」
 私の一声に全員が頷く。
「繭のイメージを進めて防音室?」と副部長の質問に私は腕を組んだ。
「あー、そうなんだけど、繭のほうが近いかな? 幻想感がほしい」
 副部長は「了解」と今までの意見を指示書きとして図面に書き込んだ。彼のスマートフォンが鳴る。「今日はここまでだね」
 全員の緊張感が一気に解ける。私は皆に手を合わせた。
「ごめんね、脚本はできたんだけど、まだ少し自分の中で舞台イメージが定着してなくって」
「部長らしくてイイんじゃないですかね」
「ここからのブラッシュアップが楽しいよね」
「効果音にさ、防音室で録った無音を入れようか?」
「ツーってやつ?」
「え? ジーって聞こえない?」
 今度の文化祭、私たち演劇部の演目は『静寂に包まれた部屋』だ。
 凡そ静寂とかけ離れた私たち演劇部員たちは、ああでもないこうでもないと大騒ぎしながら、部室を後にした。
 誰もいなくなった部室はまさに静寂に包まれた部屋なんだろうなぁ、と昇降口で誰かが言った。

テーマ; 静寂に包まれた部屋

9/29/2024, 2:19:25 PM