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後ろにも前にも続かない道の真ん中にぽつんと取り残され、しゃがみこんで唸っている。ここで終わりなのだと自分でもそう思っているのに、どうにかして道の先を見たいと考えていた。続けてきたこれまでと、続けられると思っていたこれからを思い、なんとかして先に進める道を見出そうとした。途切れた道の先は真っ暗闇だ。けれど今いるこの場所は、スポットライトのごとく照りつける日差しで眩しく、痛いほどに暑い。
どこにも行く宛はないけれど、決めなければならない。どこかに進まなければいけない。進むための道を見つけなければー。

目が覚めて一番最初に感じたのは冷たさだった。
起き上がると同時にやってきた目眩で、視界が回転する。肌の上をいくつもの水滴が滑っていく感覚を頼りに、地面がある場所を描き、脳に落ち着くように言い聞かせる。無駄な試みだとは分かっているが、何もしないよりはマシだった。体にはり付くほどに湿ったTシャツが、つけっぱなしの扇風機にあてられて冷たくなっている。
着替えるために立ち上がる。波に揺れる船のようにゆらゆらと振れる視界は、いつ転覆してもおかしくない。不安と緊張を持ってクローゼットへ向かい、なるべく刺激を与えないように替えのТシャツを取り出し、着替えた。
日常生活を脅かす病なのに、原因はわからない。だから治しようがない。渡り歩いた何人目かの医者は困ったように頭をかいて、ストレスや過労と言って、休みなさいと付け足した。どこへ行っても、それ以上はなかった。
すべての動作に恐怖と不安を覚える。目眩に慣れることはない。休むために目を閉じて耐えているうちに、あの場所に戻される。後も無ければ先もない、途切れた道の上。
「君の席は残しておくけど、0からの再出発とかはやめてね」
社長は笑ってそういった。能力を買われて就いた仕事も、このまま行けばあっさり切られて終わるだろう。日々の積み重ねがいかに大事かくらいは分かっていたし、自分の代わりを見つけるのが難しくないことも分かっていた。
ストレスや過労、いい得て妙だ。自分には過ぎたことを求めた結果がこれなのだから。
0にしてしまえることなど何も無い。積み重ねてきたものが自分を作っているのだから。けれど、そこから降りなければいけないことに気が付いてしまった今、全くの更地だったら良かったのにとすら思い始めている。

湿った生ぬるい布団に戻り、回転する瞼の裏の闇を見つめる。道の先を見つけるために、頭は妄想を捏ねくり回す。築き上げてきたものへの執着と現実を交互に見て、あの夢を見せる。0からの再出発を選ぶことすら、今は難しい。

2/22/2024, 12:42:06 AM