イオリ

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蝶よ花よ

 書道教室、バレエ教室。どこへ行くにも親が車で送り迎え。

 近所の幼馴染の子。蝶よ花よと大事に育てられてる──はずだけど。いつも暗い表情に見える。

 
 給食の時間。隣の席になったあの子が、小さい声で聞いてきた。

 体育のあと使ってたタオル、あれってもしかして新日のタオル?
 
 えっ、そうだけど。

 ごめん、たまたま見えたから。ロスインゴの内藤哲也だよね。

 知ってんのか。意外だな。プロレス好きなのか。

 うん。スマホで見てる。こっそり。

 こっそり、か。まぁそうなんだろうな、と思ったが、口には出さなかった。

 今度さ、録画しておくからうちのテレビで見るか?

 え、いいの?  突然声を上げた彼女に視線が集まった。はっと気づいた彼女は慌てて下を向いた。

 急にでかい声出すなよ。

 ごめん。

 ったく。ちなみにさ、お前はだれが好きなの?

 ……鈴木みのる。

 マジで? 今度はこっちが声を上げた。

 ちょっと、静かにしてよ。

 悪い、悪い。意外すぎて。

 周りの注目が早く消えるようにと、できるだけ普通の表情を心がけた。だが、抑えきれず笑いが漏れてしまう。

 お前が、鈴木みのるって……。

 ちょっと、笑わないでよ。 そう言った彼女の顔は、いつもより明るく見えた。



 

8/9/2024, 12:49:45 AM