京都の坂を修学旅行の一団が下っていた。
中学時代の彼の同級生たちだ。彼はそのなかに混じって青空を背にした古都の街並みを眺めている。いかにも楽しげに。
しかし、———瞬間、叫び声。
「人殺し! 人殺しよお!」
上下に正しく流れていた人の波が途端に混沌を極めた。人々はめいめいに叫んだり泣いたりしながらあちこちへ逃げ惑った。人間の渦ができ、それに巻き込まれた者から例の人殺しに殺された。背の高い彼は人々の頭越しにそいつを見ることができた。それは今の上司だった。
「逃げよう! 逃げよう!」
彼は率先して学生たちを引き連れ、誰かの身体を幾人も押し退けてぐんぐんと坂を下った。そして大きく口を開けていた地下への入り口に飛び込んでしまうと、前後は延々とつづく一直線の道になった。すぐそばを流れる水の音が聞こえる。後ろには生徒が数十人いた。
「進もう!」
彼らは足音をひそめて慎重に進んだ。すると眼前の暗闇からぬらりと人影が浮き出てきた。殺人鬼だ。
「逃げろ! 逃げろ!」
彼はせいいっぱいに叫びながら後ろへ駆けた。辺りの景色はもう闇に溶けて、息せき喘ぐ声すら完璧な陰に飲み込まれた。友達を押し倒して奥へ奥へ進んで、もう誰もいない。
「はやく出勤しろ!」
出勤しろ! オフィスに立ち尽くす彼が気がつくと自身のベッドの上だった。身体がだるい。体温を測ると微熱だった。
へんな夢を見た、と彼は思った。
12/16/2024, 12:49:50 PM