かたいなか

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「世界、せかい……?」
前回のお題が「どうして」で、今回のお題が「この世界は」である。某所在住物書きはスマホの通知画面を見た途端、第一印象で「どうしてこの世界は◯◯なんですか」を閃いた。
某灰白の猫が黄色い受話器持って、抗議している姿しか出てこない。ヒヤリハットネタ大集合である。
「多分出題者としては、『この世界は美しい』とか『この世界は残酷』とか書かせたいんだろうけど、
俺、その分野書くと、バチクソ厨二チックになるし、なにより説教臭くなるし……」
この世界、このアプリ、なかなかネタのチョイスが手強い。物書きは今日も途方に暮れる。

――――――

「この世界は」。今回もなかなか手ごわいお題がご到着の様子。こんなおはなしをご用意しました。
最近最近のおはなしです。童話チックで非現実増し増し、不思議な都内某所の稲荷神社と、「この世界」ではないどこかのおはなしです。

敷地内の一軒家で、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしているその稲荷神社は、
草が花が山菜が、いつか過去の東京を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折奇妙な連中が花咲いたり、頭を出したり、迷い込んだり■■■したりします。
直近では6月27日、もう画面スワイプで辿るのがバチクソ面倒な過去の頃、「ここではないどこか」のお題のせいで、妙ちくりんな黒ウサギが、どこか知らない場所から稲荷神社に誤進入。
そういう妙な連中は大抵、都内で漢方医として労働し納税する稲荷神社在住の父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴に、ドンドとブチ込まれるのです。

今回も約7ヶ月ぶり、その手のタイプのおはなし。
神社にやって来た妙な連中を少しご紹介しましょう。

ある時、某所のイチョウがどっさり葉を落とした頃、神社の参道に、見事なサシの入ったお肉にしか見えない模様のキノコが顔を出しました。
そのキノコは、たしかに高級和牛のメイラードチックな香りがするのに、そのメイラードを嗅ぐと何故か無性に野菜を食べたくなってくるのでした。
「この世界は野菜摂取量が不足している!」と、キノコはキノコのくせに、健康リスクを指摘します。
父狐はキノコを「ニクナシヤサイダケ」と呼び、周囲の土ごと掘り起こして、「世界線管理局 植物・菌類担当行き」の黒穴に放り込みました。

またある時、まだ早咲き寒桜のツボミもかたい頃、神社の薬草園で、青い羽のモフモフちょうちょが、ツバキの葉の上で休んでおりました。
モフモフちょうちょは羽と羽を叩き合わせ、「パチリ」、小さな音を出すと、その羽いっぱいに、キッチリ30年前の光景を映し出しました。
「そう、この世界は、昔こういう景色だったのね」
モフモフちょうちょは感慨深そうに言いました。
父狐はちょうちょを「カイコガ」、懐古蛾と呼び、ちょっとエモい虫かごに入れて、「世界線管理局 節足動物・昆虫担当行き」の黒穴に送り出しました。

そしてある時、都内が初雪で賑わった頃、神社の庭で、白百合のような花を右耳の裏か首筋あたりに付けた白い狼が、日向ぼっこをしていました。
狼は、「実は前にも、4月16日頃、一度迷い込んだんだ」と申告しました。とんだ大昔です。
「こことは別の世界の、恐ろしい裂け目に落ちて、気がつけばまたこの神社だ。……私の世界とこの世界はどうやら、ピッタリくっついているようだね」
父狐は彼を「迷子常習犯」と呼び、「世界線管理局 密入出・難民保護担当行き」の黒穴へ案内しました。

最近最近の都内某所。不思議な不思議な稲荷神社は、今日も「この世界とは違うどこか」と繋がり、関わり、送り返しています。

1/16/2024, 3:03:48 AM