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玄関を開ければ途端に聞こえる廊下から裸足で駆けてくる小さな無数の足音たち、少し甘い味付けの彼女の手料理、小さな服を広げた時にふわりと鼻をかすめる柔軟剤の香り、同じ空間で各々が自由に過ごすリビングで流れるバラエティ番組、隣で眠る子どもの体温。


僕は微かに消毒の匂いがする部屋で、規則正しく鳴り響く心電図を眺めていた。意思に反して動かせない身体がもどかしく、視線だけを辛うじて見える青い空へと向けた後に、夢を見るために目を閉じる。


叶うならば、もう一度だけその時間が欲しかった。




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『手放した時間』

11/23/2025, 2:19:22 PM