アクリル

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やさしい嘘


心の気触れは振り返すらしい。
その度あやすような言葉が欲しくなる。

口寂しくなって辞めれられない嗜好品のように繰り返す。
都度表現を変えながら、あなたの柔らかい人柄から引き出そうとする。
揺らがなくて無くならない、不変の何かを。

万事は移り変わるのが自然だなんて、わかっていた。
目を覆いたくなるような変化も、大笑いして喜びたくなるような変化も見てきた。
あなたもそれは同じで、お互いに人間らしく生きてきた。

だから怖くなった。
大小含んだ制御不能な変化は、時代をも巻き込んで
見えない大きなものに飲み込まれて
来世での再会まで期待できないほどに
この繋がりが引き千切られるのではないか?

そんな極端な終末思想に苛まれてしまう。
脳の悪戯だ。

いつものことで、いつも以上に苦しい。
開け放された窓から流れ込む風だけが私の頭を冷やしていく。

平静を装ってあなたに話しかけてみる。

「ね、今日一緒に帰りたいな」
「うん」

あなたの微笑み未満の表情には嬉しさが混じっている。
あなたの髪が西陽を纏ったカーテンと揺れる。
同じ形の机と椅子、遠くで聞こえる夕方のチャイム。
次々と校庭から姿を消す人影。
いっそう色濃くなる「終わり」が、私の深層を怯えさせる。

日が暮れても、あなたの声ひとつあれば
寿命まで生き延びられる気がする。

もう、言ってしまおうか。

「重いこと言うね」
「なぁーに?」

聞き慣れた間延びした返事に安堵して、私は呪いにもなり得る言葉を吐く。
最低限の気遣いを持って。

「しつこくしないから、この先も一緒にいたいなあ」

「いるよ」

そよ風のようなあなただ。
首を絞めるようなことを言ってしまった。
優しい即答の裏で、苦しくならないだろうか。

ありがとう、と言いかけた時、あなたは私の眼前で呟いた。

「私も怖かった」

どうか本当でありますように。
でも偽りなら
そんな泣きそうな顔で言わないね。

1/24/2025, 10:38:36 PM