『消えない焔』
この季節になる度に、あの日出会った小さな少年を思い出す。
「明日、父さんが死ぬんだ」
その言葉は、風のない夕暮れにぽつりと落ちた。
誰にも聞かれないように、だが、誰かに届いてほしいように。
私は何も言えなかった。
ただ、少年の瞳の奥に灯る小さな焔を見つめていた。
それは悲しみでも怒りでもなく、
言葉になる前の、名もない熱だった。
「おじさん、なんで人は死ぬの?」
「──……。」
「なんで、人はこの世に存在してるの?」
空に放たれた火の粉のように夕焼けは赤く燃え広がっていた。
「………父さん!早く帰ろー!」
「………あぁ。」
あの時の少年は今何をしているのだろう。
学生だった俺は、彼に何もしてやれなかった。
10/28/2025, 7:18:57 AM