「メリークリスマース!!」
時刻は午前八時。
通勤通学中の人が行き交う道に大きな声が響き渡る。
声の方を見ると、赤いサンタ服を着たお兄さんが立っていて、ニコニコと街ゆく人々に声をかけていた。
皆歩く足を止め、サンタ服のお兄さんの周りに集まっていく。
もちろん私も例外ではなく、足を止めてその様子をぼんやり眺めていた。
「あ、今年もいるんだ。街のサンタさん。」
ひょっこりと急に現れたのは、学校でよくつるむ友人だった。
神出鬼没なのはいつもの事なので、正直今いきなり出てこられても驚きはしない。
『街のサンタさん?』
「ここ数年、有名なんだよね。」
友人はガサゴソとポケットからスマホを取り出し、目にも留まらぬ速さで操作していく。
「クリスマス近くになると、子供から大人までみんなにプレゼントをくれるんだよ。」
『へー……誰でも?』
「もちろん!中身はお菓子が入ってるの。去年あたしも貰ったよー。」
目の前に出されたスマホの画面には、赤い箱に緑のリボンで装飾された箱があり、中に入っていたであろうクッキーと一緒に写っている。
『美味しそう。』
「美味しかった!!手作りらしいんだよね。」
『どこかのお店のじゃないんだ。というかその人パティシエか何か?』
「正体はわかんないんだよね……SNSとかでも色々考察されてるし。名前もわかんないから、みんな街のサンタさんって呼んでるの。」
そんな正体不明な奴のお菓子を食べて大丈夫なのか、とだいぶ心配になったが、去年もらって食べて、今の今までピンピンしているので大丈夫であろう。
チラリともう一度サンタに視線を移す。
笑顔で人に愛想を振りまいている。接客業が向いてそうな人だ、とサンタを目の前にして夢の無いことを考えていると、友人が「あ!」と言った。
『何?』
「プレゼントなんだけど、たまに当たりがあってね。」
なんの事やらと首を傾げていると、友人がまたスマホを操作し画面を見せる。
「プレゼントをくれる時に、リボンの形のブローチも一緒に貰う時があるの。」
『リボンのブローチ……』
画面を見ると、リボンのブローチの写真がSNSで投稿されていた。
冬向けの記事で作られたリボンで、色は様々だが固定で結び目のところが少し黒い。
ワンポイントになってたしかに可愛らしい。
『で、これを貰うと何かいい事あるの?』
私が尋ねると、友人は待ってましたといわんばかりに、腰に手を当て咳払いをして、一言。
「なんでも欲しいものが手に入る。」
自信満々に答えられたが、その言葉に目をぱちくりさせてしまった。
『は?いやそんなわけ……』
「でもそうなの!!現に私の入ってるサークルの先輩が貰って、欲しかったコスメ手に入ったんだってさ!!」
キラキラと目を輝かせながら熱弁されるも、非現実的すぎて頭に入ってこない。
アホらしくなり、学校へ向かおうと熱弁する友人を置いていこうとした瞬間、急に目の前に何かを差し出された。
「メリークリスマス。こちらをどうぞ。」
先程まで綺麗な笑顔を振りまいていたサンタさんだ。
いつの間に自分たちの所まで移動してきたのだろう。
目の前には水色ボックスに緑色のリボンが飾ってあるプレゼントが差し出されている。
静かに受け取ると、もう一箱渡してきた。
『二つ?』
「そこの友人の分。でも君にはこれもあげちゃうね。」
そう言って差し出されたのは……
白いリボンのブローチだった。
『え、あの。』
「君、いい子そうだから、プレゼントになんでも貰えるチャンスをあげる。」
『あ、ありがとうございます?』
ふたつの箱で両手が塞がれていたので二箱とも片手に持ち替え、リボンも受け取る。
その時にサンタの顔を見ると、少し息を飲んだ。
サンタの顔がにっこり笑っているようで、目は笑っていなかった。
光の加減もあるのか、顔も暗く見えてしまって余計に怖い。
「これを肌身離さず大事に持っておいてね。」
『あ、え、あの。』
「あとは、君が欲しいものを願って過ごしてくれれば、欲しいものが手に入るだろう。」
欲しいものが……手に入る。
「それでは……素敵なクリスマスを。」
ヒラヒラと手を振りながら、サンタは先程居た場所へ戻って行った。
「良かったねー!!ツイてるじゃん!!」
友人は自分の分のプレゼントを受け取りながら、キャッキャと騒ぐ。
あの顔を見てしまったので、本当にもらって良かったのだろうか、などと考えながらリボンに目を移す。
「どうする?つけて学校行っちゃう??」
『いや、しまっとく。』
貰ったリボンとプレゼントを持ってたエコバックにしまって、学校へ向かった。
数日経ち、ついにクリスマス当日。
リボンを貰ったことなどを忘れて、家でくつろいでいた頃。スマホに着信が入った。
『はい?』
「もしもし~!!私!!今日暇なら遊ばない??せっかくのクリスマスだし~」
友人からの電話。
いつも通り他愛もない会話をしていくんだろうな、と思い話していた。
「そういえばさ」
『ん?』
「欲しいもの届いた?街のサンタから。」
咄嗟に言われてキョトンとしてしまったが、すぐに思い出した。そういえば、と電話を片手に近くの棚を漁る。
『いや、何も届いてない。』
「あれぇ、そうなんだ。」
プレゼントで貰ったお菓子箱を開けると、例のリボンのブローチが出てくる。
手に取って改めて見ながら、ずっと思ってた疑問を呟いた。
『というか、住所も何も書いてないのに、どうやってプレゼントを届けるの?』
「まぁ……それはなんか住所録的なのとかかな?今あるかわかんないけど……」
『私名乗ってないんだよ?ただリボンを渡されただけ。どうやって……』
友人も分からなくなり、何も言えなくなったのだろう。
無言の時間が訪れる。
リボンをいじっていると、ふと変な感触がした。
『……ん?』
「どした?」
リボンの結び目部分が異様に固い。
飾りの固さというよりかは、中になにか入っているような。
『ちょっと待ってね。』
私はハサミを取りだし、リボンの結び目部分を切ろうとした。
しかし、やはりと言うべきか、切れない。
布のせいとかではなく、明らかにリボンの中に固い何かが入っている。
このままじゃ中を確かめられないので。ハサミの刃を器用に使い、リボンを解体していく。
無惨になったリボンから出てきたのは、
『……レンズ?』
「え?」
黒く小さい丸いレンズがついた物体。
そしてこれはどう見ても……
『カメラ……』
「は?なんで??」
もう一度バラバラのリボンを見ると、もう一つ細長いものがでてきた。
『これは……何、細長い……』
「と、盗聴器だったりして……」
友人がふざけたように言うが、正直笑えない。
もし、カメラと盗聴器だとしたら、あの魔法のようなプレゼントにも納得が行く。
予めカメラと盗聴器の入った、リボンを身につけさせ、動向からその人の家や欲しいものを探り、プレゼントしていたのだろう。
『でも、いまいち目的が分からない……』
「そういえばさ、前に同じようにリボンブローチ貰ったサークルの先輩がいるって話したじゃん?」
『あぁ、コスメ貰ったんだっけ。』
「話詳しく聞きたいなって思って連絡してるんだけど、ずっと返事来なくて、サークルにも顔出てないんだよね。」
徐々に冷や汗が出ていく、頭の中で嫌な想像しかできない。しかし、そんなふうに考えてる余裕もないので、どうするべきか思考をめぐらせる。
「それ、結構やばいのかな。」
『とりあえず、交番に……』
ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。
「誰か来た……?約束でもあったの?」
『いや……誰とも……してない。』
とてつもなく嫌な予感がする。
一人暮らしのため、他に確認してくれる人はいないので、自分で見に行くしかない。
ソロリソロリと玄関へ向かい、ドアスコープを覗く。
すると宅配のお兄さんが荷物を持って立っていた。
どうやら実家から仕送りが届いたようだ。
胸をなでおろし、友人の電話を一度ミュートにしてから、ドアを開け対応する。
さっきまで怖い話をしていたからか、重い荷物だけどその場に置いてもらい、自分で入れることにした。
宅配のお兄さんが去ったタイミングで、へなへなとその場にへたりこんだ。
張ってた気が抜けたのだろう。
さっさと入れてしまおうとドアを開け、荷物を持ち上げた時、後ろに気配がする。
恐る恐る振り返るとそこには、
この前のサンタさんが立っていた。
「こんばんは。」
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12/24/2023, 9:09:26 AM