金零 時夏

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欲望

とある夏の日だった。俺は、あの日。

夕空が満ちた空の下、夏の終わりに吹く風特有の空気感が、俺を焦らせる。人気のない住宅街。未だ鳴り止まない蝉の音。暑い靴の底は、休みたいと叫んでいるように思えた。夏の夜の匂い、どこからともなくやってくる喪失感に、胸が軽くドキンと波打った。西に沈む太陽をぼうっと、眺める。そうだ、深呼吸をしてみて、心を落ち着かせてみよう。目にかかるほど長い前髪は、吹きまどう風にされるがままであった。

辺りはオレンジと深い藍に包まれている。俺が乗ったせいでキィキィと音を立てて揺れるブランコは、いつかの懐かしさを思い出させた。俺は、欲望に塗れた人間が、心底嫌いだ。金、性、愛。人間は、欲望というものが必要なのだろうとは思うけれど、それでも。


______俺は、欲望にまみれた汚い大人に、なりたいとは到底思わない。

だから俺は、大人になるのを辞めたのだ。

3/1/2023, 10:50:03 AM