遠江

Open App

お題:それでいい


『ゴースト・ジーザス』

「い、生き返りなさった……」
「え?」
「ヨハネ、ヤコブ、みんな呼んで来い! 神の子が生き返りなさったぞ…!」
「え、いや僕、ジーザスでは……」
「ジーザス!ジーザス!ヤーレン、ソーランソーラン!」
「「どっこいしょーっどっこいしょっ」」
「聞いて…」
「やっさいもっさい!」
「「やっさいもっさい」」
「誰も聞いてくれない…」

大変な騒ぎである。バケツをひっくり返したように歓声が飛び散る。いつのまにか『脱★ゴルゴダ』『イエスは不滅★』と書かれているのぼり旗を持った男衆が、「イエス(仮)」の周りをグルグル回っていた。

実のところ彼はイエスではなかったのだが、もう今さら「違います…」とも言えないし、言ったところで姿形はイエスだったので信じられるはずもなく。記者のインタビューに気のない「Yes…」を繰り返しながら彼はジーザス・クライスト・スーパースターとなったのであった。

彼は真面目な人間だったので、一生懸命石をパンに変えたと見せるように裏工作をしたり、水をワインに変えたりした。
ときどき神であるハトがやってくるので泣きついていたが、「上手くいってるならそれでいいんじゃね?」と信託されてしまい、トボトボとまたパン屋を買収しに行くのだった。

夕暮れの空。
パンをバレないように麻布の袋に入れてロバでゴトゴト帰る。
もし自分がこの役目をおりたなら。と考える。
きっと支えを失って、路頭に迷う民が沢山出るだろう。元の自分が自死を選んだ時には、その重さがなかったから勝手に死ねたのだとわかる。
イエスは常に濡れた服を着る心地だったたろうなと思う。重いし、動きづらくて、苦しい。
そして自分が一番彼を愛し期待し、失望し憎んでいた。
神の子であると同時に、人である同い年の彼に。

彼は決めた。
民が「イエス」なくしても、支えを失わないようにしてから、去る。イエスは自分に銀貨で売られることを知ってから、あまりに想いを残す時間がなかった。
男は手綱を握り直す。
一度目の生の終わりで後悔はした。しかし、自分は変われなかった。悔い改める、ための今生なのだ。
誰の記憶に残らなくていい。自分がいなくなったことを喜ぶものがいていい。色々理由があって裏切ったけれどそれももう、いい。
イエスとして生きる。
墓石に「イスカリオテのユダ」と刻まれる必要はないのだ。




お題:それでいい
イースターの日なので。


4/4/2026, 6:19:27 PM