「父さん!めちゃくちゃキレイだね!」
今にも駆け出してしまいそうな息子の左手をしっかり握りしめながら、その弾む声に返事をする。
父親として面目が立っただろうか。
先日、不可抗力とは言え約束を破ってしまったお詫びとして、今日は息子と2人でキャンプに来ている。
いつもと違う、少し遠い所にある穴場のキャンプ場。山も川もあり、いろいろと体験するには良い環境だ。
到着が思ったより遅くなってしまったので、テント設営、魚釣り、焚き火の準備、食事までを、日のある間に一気にやりきった。妻が用意してくれていた握り飯の美味かったこと。今頃、下の子と一緒に何してるかな…。
家に思いを馳せながら食後の片付けをしている内に、1日の疲れがどっと出たのか、気付いたら息子が椅子に腰掛けたままうたた寝をしている。
少しだけ寝かせておこうかと思ったが、今日のメインイベントがまだ残っている。そっと揺すって起こす。行こう。
「父さん!キレイだね!灯りがこんなにいっぱい!」
本当に来て良かった。息子とこんなに長い時間2人だけで過ごしたのはいつ以来だったか。
「こんなに楽しいなら、父さん、たまには約束破っても良いよ!」
眼下に広がる街の灯りを望みながら、思いがけない発言に苦笑する。名誉挽回とはまだ言えないようだ。
テントに戻るまでの道すがら、いろいろなことを話した。今日のこと、学校のこと、友だちのこと、家のこと。子どもは子どもなりに、いろいろ感じ取ったり一生懸命考えたりしているんだなと感心する。はて、自分がこれくらいの年齢の頃はどうだったろうか…。
テントに戻った途端、電池が切れたかのように眠りについた息子を横目に見ながら、明日のプランを確認する。明日は龍見学ツアーか。
息子の隣に寝転びながらさっき見た夜景を思い出す。あの灯りの中に、きっと自分たちと同じような "人の親子" がいるに違いない。その親子も自分たちのように幸せな時間を過ごせていたら良いな、などと取り留めのないことを考えている内に眠り落ちていった。
―――続・信頼と実績 [鬼の親子]
#5【街の明かり】
7/8/2023, 5:12:53 PM