一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・貴方が誰かってことは知ってる、私に見せて。

 廃屋の中、男女が向かい合って立っている。2人の強張った顔から緊迫感がにじみ出ていた。
「Please, John 」
 女性の視線が男性の持つ書類に注がれる。女性の注意の方向を見ることもせず、男性はシニカルな笑顔を浮かべた。
「John? I'm Tom」
 男性は、とある組織の構成員だ。彼の持つ書類が多くの人の命を握っている。片や女性は、たまたま事件に巻き込まれた元傭兵という経歴の持ち主だ。
 張り詰めた場面に不穏な音楽が流れる。映画『テロリスト』は佳境に差し掛かっていた。
 追いつ追われつの2人が初めて顔を合わせた、映画の肝となるパートだ。
 ここから展開が一気に加速した。
 彼女が手招きするように、手のひらを上に向けクイッと指を折った。
「I know……フユワイッショニ」
 その言葉に反応した男性がいきなり発煙筒を投げて逃げて逃げ出した。追う女性。男性の救助のためヘリコプターがやってきた。女性の元同僚たちが応援に駆けつけた。しっちゃかめっちゃか、派手な音、煙、涙の対面、涙の別れ……、エンタメ映画のオール出演!
 
 エンディングロールが流れる中、私はホッと息をついた。なんか後半はまとまりなく派手で、まったく覚えていない。それよりも気になった部分が!
 スマホを手に取る。
 キーボードを英語に変えて、マイクに一言。
「冬は一緒に」
「who you are, you show me.」
 おぉ〜、ソラミミ、見事に変換された。
 
テーマ; 冬は一緒に
    

12/18/2024, 4:37:31 PM