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 某日夜、小学校。
 人気のない廊下に、一人の少年が歩みを進めていた。

 彼の名前は、空木 想太。
 この学校の生徒である。
 しかし、生徒だからと言って夜の学校にいていいわけがない。
 なぜ彼はこんな時間に廊下を歩いているのか……

 それは彼が、宿題のプリントを教室に忘れたからである。
 彼の担任の教師は、宿題を忘れることを決して許さないタイプなのだ。

 彼の担任の教師は基本的におおらかなタイプだ。
 居眠りも遅刻もおしゃべりも怒らない先生である
 しかし宿題を忘れる事だけは許さない。
 宿題を忘れた日には、その晩の夢に出てくるほど猛烈に怒られる。
 だから彼のクラスでは宿題を忘れる生徒はいない。

 それでも想太は、はじめ学校に来ることにしり込みしていた。
 彼は怖がりなのだ。
 特に夜の学校という不気味な空間は、彼にとって絶対に訪れたくない場所である。
 そんな彼がここにいるのは、ひとえに心強い助っ人――友人の隆二がいたからだ。

「助かるよ、隆二。
 僕一人じゃ来れなかった」
「なんだよ想太、改まって……
 俺たちの仲だろ?」

 隆二はにこりと笑う。
 彼は想太の良き理解者であった。
 彼は、想太の事なら何でも知っており、そして常に彼の味方だ。
 そして、想太が助けを求めれば。、すぐに駆けつけてくれる正義のヒーロー。
 それが隆二だ。

 これを読んでいる読者は、『そんな奴いない』とお思いの事であろう。
 それもそのはず、隆二は想太のイマジナリーフレンドなのだ。

 想太は家庭の事情から、引っ越しが多かった。
 そして生来の引っ込み思案から、なかのいい友達が出来ることが無かった。
 彼はアニメや漫画で見る『友達』に人一倍憧れ、ついには空想上の友達を生み出すに至ったのである。

「それにしても想太、忘れ物多いぜ。
 気を付けな」
「気を付けているんだけどね」

 しかし想太は、隆二が存在しないことに気づいていなかった。
 彼には友達がいない。
 その寂しさが埋まらない限り、隆二は彼の心の中で存在し続けるのだ。

「なんだよ、想太。
 気味の悪い笑顔をしやがって」
「いやあ、僕もいい友達を持ったなあって
 やっぱり持つべきものは友達だね」

 思い込みとはいえ、想太は一人ではなかった。
 不気味な校舎も、二人であれば怖くない。
 想太は、ウキウキしながら教室に向かうのであった。

 ◇

 だが、その様子を見ていた者がいた。

 想太と同じように、宿題のプリントを取りに来たクラスメイトである。
 そして彼女は一人でしゃべる想太を見て震え上がる

 無理もない。
 想太は、隆二と楽しく会話していると思っているが、その実独り言である。
 事情を知らない人間から見えれば、想太が何か見えない存在――幽霊と話しているようにしか見えないのだ。

 彼女はその様子を見て怖くなり、逃げるように逃げてしまった。
 先生に怒られるよりも、幽霊と話す想太のほうが怖かったのだ

 そして次の日、クラスで『空木想太は幽霊と話せる』という噂が流れ、想太に友人が出来る日がさらに遠のくのであった

10/26/2024, 3:39:13 PM