かしわ文

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 全てを手に入れた、そんな万能感で満たされていた。
 私が与えるものに、皆喜び色めき立った。私の一挙手一投足に、皆感極まった。
 これが求めた世界なのか。これが辿り着きたかった光景なのか。最早なにも持っていなかった頃の私の心など、とうに忘れ去ってしまった。この輝く、夢のような世界で、陰りは存在できなかった。
 煌々と輝く月明かりのような私が、一夜限りの夢であろうと。今はただ、ただ望まれるままに輝ける喜びを。
 ――どうか。美しい夜よ、明けないで。そう星に願って。

2/10/2025, 1:28:14 PM