白糸馨月

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お題「バカみたい」

「バカみたい」

 それは母の口癖だった。母はいつもなにかにつけて人と比べているような人だ。
 バカみたいと言われるようになったのは、私が小学校のお受験に親が希望している第一志望に落ちた時から始まった。
 今思えば、頑張ったのだから褒めてほしいと思う。結果的に私立の小学校へ行けたのだから。でも、母としては許せなかったようだ。

「バカみたい。今までの努力が無駄じゃない」

 そこから私は母の期待を裏切らないようにした。でも、母から褒められることはなかった。

「貴方は足が早いはずなのに●●ちゃんに負けて、悔しくないの? 貴方ってほんとバカみたい」
「どうして一位とれないの? あんなに勉強したのにバカみたい」
「おしゃれ? そんなことしてるから▲▲さんにテストの順位負けるんじゃない。ほんと、バカみたい」

 それが高校まで続いて、そこで親の言うことを聞いてしまうような従順な子だったら、私の心はとっくに死んでいた。父は無口で私に関心なくて、学校の友達と親身に相談に乗ってくれる先生が私の心のささえだった。
 大学でやりたいことができた。私が小学校からエスカレーターで通ってきて、大学も特に苦労せず入れるけど私がやりたいことがその大学には無かった。
 だから、私は母に「やりたいことがあるから大学受験したい」と言った。
 すると、母はすごい剣幕で怒鳴りつけてきた。言っていることは支離滅裂だった。

「私がどれだけ苦労してあんたを小学校へ入れたと思ってるの」
「■■大学じゃ不満?」

 とまくしたて、しまいには

「苦労して育ててきた私がバカみたい」

 としめくくって、うずくまって母は泣き始めた。自分の思う通りに私が動いてくれないといつもこうだ。
 正直、もううんざりだった。

 あれから何年か経ち、私も社会人だ。私はあれから高校を卒業して、一浪して入りたかった大学に入って、母の反対にあいながら一人暮らしを始めた。そして、大学時代から住んでいるマンションの一室で今も暮らしている。
 時々母から電話がかかってくる。今日も母は私の話を聞くよりもまくしたてるように自分の愚痴を吐いて、最後に「バカみたい」としめくくる。自分が私に対して理不尽にコントロールしようとしてたことなんて忘れたみたいに。私はそれにテキトーに相槌を打ちながら聞いている。
 電話を切って、冷蔵庫から缶ビールを取り出して飲む。

「こういう電話に結局つきあう私もバカみたいだね」

 そう言ってハハッと自嘲気味に笑った。

3/23/2024, 2:00:54 AM