「舞い」
地球ではない別の世界での「愛」はどんな形をしているのだろう。
美しい。それはもしかしたら「愛しているから」なのだろうか。この感情はきっとこれから先の僕の研究対象になるだろう。
一目だけ。一瞬だった。
その一瞬で僕の心を奪った。
燃え盛る炎のなか。裸足で踊り笑い、刺だらけの腕輪と首輪をつけていた。痛みに耐え、痛みを観客に見つからないように隠すように笑う。
これはこの世界の日常だ。
「炎の踊り子」と呼ばれるこの行事は金のない、あるいは売られたもの達。いわゆる奴隷というもの達が1日だけ、いやひとつの夜だけ踊り狂う。
その夜が終わる頃には力尽き血だらけ火傷だらけで
息を引き取る。
残酷だ。禁止しろ。だの言うことはない。
だってこれが常識なのだから。
僕は感情が分からない。
愛も恋も寂しいもなにも分からない。
だから僕は研究をする。いつか分かるようになるために。何よりも研究が好きだから。
そんな僕が綺麗だと思ったのは。
炎の踊り子の1人の女の子だった。
髪はこの世界では少し珍しい黒髪だった。
きっと黒髪だから売られたのだろう。
とにかく彼女は美しかった。
風に揺られる髪の毛も。笑い顔も。
目から溢れる涙も。それを隠そうと下唇を噛み締めているところも。
大好きだ。
僕は言ってみたんだ。
「貴方は月のように美しい」と
彼女はきっと腹が立ったのだろう。
先ほどよりも強く、強く下唇を噛み締めた。
それで僕に言ったんだ。
「そうでしょう」
その一言だけだった。
美しい彼女は月のようだ。
朝になると本当に存在していたのか分からなくなるほどに姿を隠す月と同じだ。
彼女は引きずられて消えていった。
痛かっただろうな。悔しかっただろうな。
でもそんな姿も美しい。
あぁ。もっと知りたい。
彼女に思ったこの感情のことを。
今はもう死んだ君を愛してみたい。
大好きだ。大好きだ。強く強く愛している。
あわよくば生きていて欲しかった。そう思う。
これはもしや恋というもののせいなのかもしれない。
これは愛してみたい研究者と愛されてみたかった
1人の少女の最初で最後の夜のお話。
「舞い」
8/21/2025, 4:26:15 PM