かっぱー

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『始まりはいつも』
私には決して消えない後悔がある。始まりはいつも些細なことだった。仲の良い相手との喧嘩なんてそんなものであることがほとんどだろう。かく言う今回も言った言っていないの論争から始まった。最初はいつも通りだった。少しずつ言い争いに熱が入っていって一度冷静になるために距離をとる、お互いの性格上すぐに謝罪につながらないことだけが難点だがそれでも一食それぞれが食べたいものを食べに出かければ帰ってくる頃には話し合うことができるようになっていた。しかし、今日はそうではなかった。気になっていた定食屋に入り、おすすめだというセットの到着を待っていると唐突にスマホが振動した。それはさっき落ち着いて話し合うために一度離れた相手からだったのだが、聞こえてきた声は全く違うものだった。電話の相手曰く出会い頭で車にはねられてしまい意識不明の重体とのことだった。はじめは何かの冗談だと思った。しかし、切羽詰まったような電話の向こうの声がこれは現実なのだと伝えてくる。私はあわてて店を飛び出し、タクシーで指定された場所に向かった。しかし、時すでに遅く私が到着した時にはすでに息をひきとってしまっていた。喧嘩別れが今生の別れになってしまうと分かっていたら、そう後悔しても時すでに遅しである。せめて向こうで再会した時にはまず私から謝罪しようと思う。だから直接の謝罪はそれまで待ってくれないだろうか。

『声が枯れるまで』
私は今カラオケに一人でいる。別に一人カラオケをするために来たわけではない。もともとは仲の良い友人と昼食を食べて、そこから今度参戦するライブに向けて予習をする予定だったのだが友人が体調不良を訴えて帰宅してしまったのだ。歌う気満々だった私からすればまさに青天の霹靂だったため、予約人数を変更しての参戦と相成った。しかし、部屋に入ってみると一抹の寂しさを感じた。その思いを振り払うかのように部屋を飛び出し、大量のコップにジュースを注ぎ机に並べた。そう、祭りの始まりである。まずは一曲目、普段だったらゆったりとした曲調の曲を選択して声出しをするのだが今日は違う。のっけからアップテンポな曲を投下して声を張り続ける。一曲歌い終えアドレナリンと心地よい疲労感に包まれた私は無敵だった。のどが乾いたら机に大量に置かれたジュースで潤し、ノンストップで曲を投下し続けた。はたから見れば変な人だっただろう。しかし、部屋の中には私しかいないのだ。完全に無敵の人となった私は声よ枯れよと言わんばかりに歌い続けた。結局声が枯れるまでと思って始めたはずの一人カラオケは退店時間ギリギリまで続いた。店を出た後の私の胸には確かな満足感が宿っていた。

10/21/2024, 12:42:47 PM