気づけばもう、「時間」が来てしまった。
それくらいに、あっという間だった。
昔から僕の体を蝕み続ける病は、予告された時間きっかりにやってきた。
けれど、あの子がいる間はそれすら忘れられた。夜空が続く一日、光のカーテンが揺れる空、氷の下に広がるクジラたちの楽園。世界にはこんな場所があるんだと、二人で目を輝かせていたっけ。
そんな思い出たちを連れていくには勿体なくて、出発の前に彼に託した。これを見てどうするかは、彼に任せよう。選ぶ権利は彼にあるのだから。
闇に包まれた世界で、クジラ達と共にそんな事を思い出す。懐かしいな、もう何年前だっけ。
ふと、雪明かりが輝いた気がした。彼が近くにいるのだろうか。氷の世界は美しいけれど、そんな世界に一人ぼっちは彼に似合わない。
どうか、そばに。そんな思いを波に乗せた。
お題:『氷の世界に一人』
-------ここからは余談です-------
潮風(前作)で出された3つの景色は病弱お兄さんが昔「死ぬならここかな」と何気なく言った場所を、氷の世界(今作)で出された3つの景色は少年が「いつか一緒に住みたい」と無邪気に言った場所となっております。
悶えて頂けたら幸いです。
5/29/2024, 11:09:15 AM