通りすがりの字書き

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これは片思いなんだと。
彼がこちらを正面から見据えてくれることはないんだと。
いくらわかっていても、想いが消せない。
毎晩泣こうが、叫ぼうが、喚こうが、自分の心から逃げられないんだ。何年経ってもかわらない。


「今日で会うのは最後にしたい」
私の言葉を聞いた彼が驚いた顔をしてくれたのが救いだった。
「別れるってことか?」
とても低い声で怒っているようだった。
「転勤になったから仕方ないよ。元気でね」
私が彼に背を向けた途端に感じた、あの日の温もりを消すことはできないだろう。

遠距離が無理なわけではない。彼は彼女の元へ戻らないとダメだから、私が消えるべきだっただけ。

「幸せになってね、さようなら」
背中の彼に聞こえるか聞こえないかの声で告げると、私は彼の腕の中から逃げた。
行き場のない想いを心にとどめたまま。


お題『あの日の温もり』

2/28/2025, 2:10:36 PM