泡藤こもん

Open App

高いところが怖い、と言うと、恋人は面白がるように笑った。
「何だよ、『ガラス張りの床』とかならともかく、こんな柵がしっかりした展望台まで怖いのか?」
彼は怖がる私の反応を面白がって、わざと柵に両手をかけて、上半身を乗り出してみせる。
「ええ、怖いの。どうしようもなく​────だって、ほんの一瞬気を抜いたそれだけで、落ちてしまったら怖いじゃない。こんな風に」
とん。押す手に力は殆ど入れなかったけど、彼がバランスを崩すには十分だった。
「え?」
彼のガラス玉みたいに真ん丸く見開かれた瞳が視界に入らなくなるまで、ずっと見下ろした。

6/18/2023, 4:08:23 PM