「なんで蚊取り線香で蚊が落ちるか、知ってるか?」「ううん、どうしてなの?」
「蚊はな、赤ちゃんのころからお母さんに『あの渦巻き🌀を見てしまったらもう命はないの』って教えられて育つからなんだ」「ええっ」
胡散臭いにもほどがある話を鵜呑みにしていた
「そのおもちゃ、分解してかっこよくしてやるから貸してみろ」「分解…?ちゃんと直してくれる…?」「当たり前だ、ホラ!」
わたしのお人形用の素敵な自転車はそれきりバラバラのままになった
何かと騙されたり泣かされたりしたけど、それでも好きだったお兄ちゃん
ある日の幼稚園の帰り道「おーい!」と呼ぶ声の方を見ると、見慣れない長い電車のようなものの先頭にお兄ちゃんが立って意気揚々と手を振っている
三輪車の後ろに荷車、スケートボードに
足蹴り乗用消防車、ハリボテ戦車、あれこれロープで繋げたうえに風船も三つ四つふわふわ付けた豪華で奇天烈な、わたしのお迎え用特別車輌
三輪車をこぐお兄ちゃん 消防車を蹴立てるわたし たくさんの友達の驚いた羨ましそうな顔
家までの短い距離が、誇らしさで胸いっぱいのパレードになった
もう聞けなくなっちゃったけど お兄ちゃんの記憶の中の幼いわたしはどんなだったろう
同じくらいあったかくて面白い、なつかしい思い出だったらいいな
「遠い日の記憶」
#465
7/17/2024, 11:16:07 AM