ミキミヤ

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貴方の心に永遠に残るにはどうしたらいいか、ずっと考えてたの。


「九条、何してんだ!早まるな!こっち来い!」

せんせいが必死でこちらに叫んでる。
ここは、せんせいの住むマンションの屋上。私はその柵の外に立っている。8階建ての屋上から足元を見れば、ずーっと下に地上が見える。

「ああ、くそっ、こういうときは110か!?119か!?わかんねえ!」

せんせいが1人で、スマホを片手に慌てふためいている。

「あら、だめよ。“先生”なら、生徒1人くらい自分で止めてみせて。」

私がそう言うと、せんせいは酷く困惑した表情になった。
すごく愉快だ。


私とせんせいは、高校の生徒と教師だ。1年生の途中から周りに内緒でお付き合いをしている。
アプローチはせんせいから。1年生の私は、大人の男の人にそういう目で見られたことに戸惑ったけれど、嬉しくて、教師と生徒の恋という禁断の関係に心惹かれて、せんせいとお付き合いをはじめた。
学校では内緒の目配せをするだけで、私達のお付き合いはせんせいの家でだいたい完結していた。
せんせいの休みの度にこのマンションを訪れた。たくさん愛の言葉を囁きあった。たくさん抱き合った。最初は軽い気持ちだったのに、いつからか、この関係が永遠に続けばいいのにって思っていた。
でも、長く過ごすうちに分かってきたことがあって。せんせいは、“生徒”の私に価値を感じていること。卒業したら、私はきっと捨てられて、忘れ去られて、次の“生徒”に手を出すんだってこと。
私はもう3年生で、卒業も目前に見えてきた。もうすぐせんせいに捨てられる。せんせいに忘れられる。そんなの耐えられないから。

「せんせい、私の気持ち、舐めてたでしょう?」

私はせんせいへ笑った。せんせいはまだ訳が分かってないみたい。

「おい、九条、本当にどうしちゃったんだよ。頼むから、こんな悪ふざけやめてくれ。俺に何か悪いところがあったんなら直すから」

せんせいが懇願してくる。万が一が怖いのか、私に触れてくることはない。
『悪いところがあったら直す』なんて、よく言うわ。
でも私は、こんな人でも、好きで好きでしょうがないの。

「せんせい、大好きよ。愛してる」

告げて、マンションの縁から足を離し、空中へ飛び出した。せんせいが必死で私の方へ手を伸ばしているのが見えたけれど、それも間に合わない。
絶望的な表情のせんせいの顔が、さいごに見えた。


これで、貴方の一生消えない傷になれたかしら。
ねえ、永遠に私を忘れないでいて、せんせい。

11/2/2024, 9:08:37 AM