「知らないと思うけどね」
歌うように言葉を紡ぐ。そんな君はさながら天使のよう。ハレルヤ、なんて言葉が脳裏を掠めた。
君の髪は風を孕んでふうわり揺れて。可愛いな、と思って見つめていたら、視線に気付かれて君は振り向いた。
「聞いてた?」
ちょっとだけ怒ったような顔。そんな顔の君も可愛らしくてたまらない。君は感情を表に出すのが本当に苦手だよね。
聞いてなかった、と謝れば、君はぷいっと顔を背けてしまった。ああごめんね、でも君の声が、髪が、顔が、全部が可愛いから。
「そんなおだてても、だめ」
そう言い残して、君は煙となって消えた。
線香の匂いが鼻を掠め、ぼうやりと目を開く。畳が頬に押し付けられていて、いや、今は自分が畳の上で横になっているのか。
ゆっくりと身を起こせば仏壇が、変わらない笑顔の君の写真が。
線香の煙を纏い、西日を浴びる君の遺影。もうほとんど声も思い出せないけれど、思い出は相変わらず色褪せない。
君がいた場所、君と交わした会話、君と食べたもの。全部全部が特別で、それを思い出せるのならば、いつでもどこでも楽園となり得るのだ。
4/30/2024, 4:38:06 PM