からっぴ

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 寂しさ値

「人が感じている寂しさを簡単に数値化できる器具を開発したよ」
 髭を蓄えた博士が言う。
「今回の治験ですが、この器具の使用で寂しさ値が正確に表示されるか、また数値を元にして行う解決手段の模索のため行われます。では、順にお並びください」
 助手の説明もテキパキと行われ、実験開始。
「こういうの、なんか緊張するよな」
「そうっすね」
 まだ世に出回っていない機器を身体に試すのだ。最初は緊張していたが、実際に行われたのは、機械に繋がった布を腕に巻き付けて少し締め付けるだけという、血圧測定のような内容だった。
「それでは、寂しさ値を発表します。1番さん68。2番さん56。3番さん75……」
 測定できる最大値は100だという。私は40だった。上京1年目、友人との出会いにも恵まれ、幸い人間関係に困ったことはないのだが、やはりホームシックというのは実在するらしい。決して低い値ではないよ、と博士。
 誰もが、人の温もりを願うものなのだ。
 だからと言っても。
「それでは、寂しさ値改善のための実験会場に移りますので、こちらの貸し切りバスに10分ほどご乗車ください」
「報酬とは別、私のおごりだ。気にせず食ってくれ」
 みんなで集まって喋って飲み食いして、寂しさ値が減るものだろうか。
 遠慮なく喋ってという博士からのお達しもあり、その疑問も口にしたが、賛同者は多かった。
 それから小一時間が経って。
「1番さん34、2番さん29、3番さん23……」
 私は26だった。
「この方法での数値への反映は一時的なものかもしれないが、寂しさなんてそんなものだから。人との繋がり、忘れんようにな」
 理屈はそうかもしれないけれど、納得いかないってば。
 やはり他の被験者もそう思ったらしく、博士に詰め寄ると、一般人の知識はそんなものか、と一蹴された。
 残りの時間、みんなで肉をたらふく食ってやった。

12/19/2024, 12:12:21 PM