ㅤ三度目に語尾が潤んで、典子はチーンと思い切り鼻をかんだ。『鼻をかむ音』として、百科事典に載せられそうなほど見事に。
「いま、あたしにやさしくしないでよね」
ㅤ鼻にかかった声と共に、丸めたティッシュがゴミ箱へと投げられる。
「なんだよそれ」
ㅤ歪な弧を描き床に転がるティッシュを俺は見守った。コントロールが悪いから、ゴミ箱の周りは使用済みのティッシュだらけだ。
「どん底の今なら、バカボンのパパとだって恋に落ちそうだから」
ㅤいやいや、俺に言わせたらバカボンのパパはなかなかの強敵だぞ。既婚者だけど。
ㅤ心の中で突っ込みながら、散らばったティッシュを拾いゴミ箱に捨てる。ゴシゴシと頬を擦る赤い目をした横顔を盗み見る。
ㅤああ、神様。バカボンのパパ様。やさしさって、どうすれば……?
『やさしくしないで』
2/3/2025, 1:08:31 PM