わたあめ。

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「お母さん。このアルバムはこっちでいい?」


娘が一冊の厚めな本を持ってくる。

表紙は経年劣化しており、少し黄ばんでいた。

『そうね、そこに置いておいてくれる?』

私はそばの段ボールを指さして答えると、娘は素直にアルバムを段ボールの中に入れた。

その段ボールの中には、数冊ほど似たような本が入っている。どれもアルバムで、中には家族の写真だけではなく、夫婦の思い出の写真なんかも入っている。


「にしても、アルバム多いね。」

娘はそう言いながら腰をトントンと叩き、フローリングの床に直に座った。

『お父さん写真撮影が趣味だからね。』

「あぁ、ことある毎にカメラ持ち出してた様な気がする。」

私の旦那は写真撮影が好きで、どこかへ出かけたり
イベント事の際には必ず自前のカメラを手に持っていた。

こうして撮られた写真たちは、全て現像してきているので数千枚近くがこうしてアルバムに保管されていることになる訳だ。

『これでも、この家に引っ越してくるときにかなり減らしたはずなのよ。』

「これで……?」

二人の視線は、目の前に山積みされたアルバムへと行く。
まだ数十冊ほどありそうだ。

『……お父さん、捨ててもまた撮っちゃうから……』

「それじゃあ、整理しても意味ないじゃないのよぉ。」

『まぁまぁ、写真で我が家を埋もれさせない為にも、手伝ってちょうだいな。』

呆れながら話す娘を宥めながら、作業を再開した。


ハラリ。

とあるアルバムを持ち上げようとしたと同時に、一枚の写真が落ちた。

『あらやだ、いけない。』

その写真を拾い上げ確認すると懐かしい写真で、思わず笑みがこぼれる。

『……ふふ。』

「何見てるの〜」

娘が横から顔を出し、覗き込んできた。
写真を見てにやけていたから気になったのだろう。

『懐かしい写真だなとおもってね。』

写真を見せると、娘は目を丸くする。


その写真には、人が一人写っているのだが、背景の夕日のせいで顔が全く写っていない。
逆光になってしまっていたのだ。


「これって失敗?」

キョトンとした顔で聞いてくる娘が少しおかしく、思わず吹き出してしまった。


『ふふ、これね、お父さんが初めて私を撮った写真なの。』


「お父さんが?」

『そうよ、私と付き合いたての頃はまだ撮るの上手くなくて。でも、私やこれからできるであろう家族との思い出を、こうして残していきたいって撮り続けたの。』

写真をそっと優しくなぞりながら、当時の会話や情景が頭の中に流れていく。

『おかげで、この量のアルバムができた訳だけど。』

ははは、とお互いに笑う。
一通り笑ってから、再び写真に目を落とす。

『これは、お母さんが持っておこうかな。』

「え、その逆光の写真を?他のにすればいいのに。」

『ううん、これがいいの。』

私は洋服のポッケに写真を優しくしまった。

『綺麗に撮ってもらった写真は、もちろんこれの他に沢山あるわ。でも……』


『あの人が初めて撮った写真はこれだけだもの。理由なんて、それで十分よ。』


そう言いながら微笑むと、娘もふふっと笑ってくれた。

「なんかいいね。そういうの。」

『あなたも、そんな人に出会えると良いわね。』

「……善処します。」

娘は耳を塞ぎながら、アルバムの山へと戻って行く。

『さぁ、私も続き頑張らなくちゃ。』

腕まくりをして私も作業に戻った。

#逆光

1/25/2024, 4:12:49 AM