降り止まない雨(彼の想い人)
何で降るかねー。
―――校舎の前で一人空を見上げる。
天気予報は確かに雨だった。
けれど曇りでどうにかやり過ごせそうだったため、荷物になる傘は携帯のリストから外れた。
生憎置傘なんて用意周到なものは持ち合わせていない。
「やだ、結構降ってる」
―――背後からの呟きに振り返れば、渡りに舟の神の使い。
「サンキュー、助かった!」
「え? ってちょっと!」
傘を広げた途端体を寄せてきた彼に、彼女は困惑を隠しきれない。
「あんた傘は!?」
「この状況でそれ聞く? 頼む、家隣りのよしみで!」
「もー、最低」
そう言いつつ渋々スペースの半分を貸してやるも、彼女ははたと気がついた。
「………ねえ、カノジョは?」
「あ? あー………まぁあれだ」
「は? またケンカしてんの?」
この男には似つかわしくない、清楚で綺麗な女の子。
何でこんなのを選んだのか、理解に苦しむ。
「今回はアイツが悪い。俺じゃない」
「カノジョに罪着せるとか、男の風上にも置けないわ」
でもそんなに合わないなら、―――別れれば?
「―――!」
歩き出したその時、不意に後方から彼の名前が呼ばれ二人は同時に振り返った。
今にも泣き出しそうに佇む、綺麗な彼の………。
―――迷いなど微塵も感じさせなかった。
彼女の姿を捉えた瞬間、彼は駆け出した。
あの子以外目もくれず、わたしの存在も忘れて。
「…………」
わたしは無言でその場を離れた。
予想以上にダメージが大きかったのが自分でも意外だった。
二人が楽しそうにしているのは、何度も見てきたはずなのに。
―――雨は上がらない。
先程まで自分の隣を埋めていた、半分のスペースが心に爪を立てる。
………今頃、仲直りをして元の鞘に収まっているのだろう。
それでいい。
明日晴れたら、また前を向く。
それまでは、この雨に流されていよう。
この涙も、今だけは。
END.
5/25/2024, 9:53:38 PM