『ブランコ』
小さい頃のブランコはまるで空を飛んでるようだった。
大人になった今では、長くなった足を地面につけないように、足を浮かせることに必死になっている。
あの頃は、どれだけ気持ちよく、高く漕ぐかだったのに。
いつからだろう。空の青さよりも、靴のつま先が泥で汚れないかばかりを気にするようになったのは。
錆びついた鎖がきしむ音を聞きながら、私は小さく体を丸める。それはまるで、社会という枠からはみ出さないように、周囲と歩調を合わせるために自分を押し殺している、普段の私の姿そのものだ。
高く漕げば漕ぐほど、視界が開けて風が気持ちよかったあの感覚。頂点に達した瞬間の、重力から解放されるような浮遊感。かつてはそこにあったはずの純粋なスリルは、いつの間にか「落ちたら危ない」「服が汚れる」という、つまらないリスク管理に取って代わられてしまった。
地面を擦らないように必死に足を上げている今の私は、本当にこの時間を楽しめているのだろうか。
私はふと、強張らせていた足の力を抜いてみた。
ザッ、と乾いた音がして、スニーカーの底が砂を噛む。少し舞い上がった埃と、足裏に伝わる確かな摩擦の感触。
減速してゆくブランコのリズムに身を委ねながら、私は苦笑する。地面に足がついたって、靴が少し汚れたって、どうということはないのだ。
空を飛ぶような万能感はもう戻らないかもしれない。けれど、地面を蹴って自分の力で揺れることの心地よさを、大人の私は知っている。
もう少しだけ、この揺れに身を任せてみようと思う。次は、縮こまった足をほんの少しだけ、空の方へ伸ばしてみるつもりだ。
2/1/2026, 2:01:47 PM