クリスマスの待ち合わせにも、君はやっぱり遅刻してきた。
「またどっか寄ってたの?」
「うん、みて。売り切れたら終わりだったから」
君がぐりんと身体をひねる。トートバッグからネギの束がはみ出ていた。
「それ背負って地下鉄乗ったんだ」
「うん。ぬた、また作れるね」
また、ぬた。また、ぬた。
楽しげに韻を踏んで君が歩き出す。トートとともに右へ左へと揺すられるネギは、なんだかつやつや輝いて見えた。マフラーの赤と相まって完璧なクリスマスカラー。
私が『ぬた』を作ったのはもう何年も前のことだ。初めてできた相手が嬉しくて、いろいろ料理を試しては君に試食させていた。ぴょこぴょこと弾むネギを見て私も急に思い出した。完成したぬたの、とろりとした味噌の色まで。
君はたまに時間の概念をひょいと飛び越える。小さなぬくもりを大事にしまっては不意に目の前に取り出す。昔確かに存在していた、恥ずかしいほどあたたかな記憶を。
『遠い日のぬくもり』
12/25/2025, 9:35:29 AM