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【 ラブソング 】(小説)

君に向けて書いたラブソングももう、きっと意味が無い。
付き合ってはいけない3B、俺はそう言われるだけあるなと自負している。残念ながら、彼女がいなくなってから気づいたことなのだけれど。アラサーになってまでバンドをやって飯を食っていくのがギリギリなんて、彼女が離れて行くことも当たり前のことだ。ましてや、売れない癖に自分の恋愛を曲に反映させる痛いヤツ。きっと俺は恋愛に向いていない。最初は夢の為にやっていた音楽も、全て彼女が好きと言ってくれているからに変わっていた。のめり込みすぎるのだ。彼女がいない今、このラブソングどころか、バンドすらやってる意味をもう感じない。メンバーの士気も下がっていることだし、そろそろ潮時だと皆が思っていた。いや、きっと潮時なんてもうとっくに通り過ぎていたのだ。突然全てが嫌になり、昼寝でもすることにした。しかし、毛布をめくるとパサリと何かが落ちてきた。便箋だ。こんなことをするのは彼女しかいない。今どき手紙かよ、と笑いと共に涙が零れた。その内容が感謝であれ、恨みであれ、耐えられる気がしなかったからだ。恐る恐る手紙を広げると、彼女の可愛い文字が並んでいた。

今までありがとう。LINEもすぐブロックするつもりだったから、手紙で書きました。単刀直入に言うと、貴方の今やってる音楽はとてもつまらないです。貴方が書くラブソングはとても幼稚で、作曲のメンバーさんが可哀想になる程でした。でも、私が最初に聞いた〈1個前の元カノと別れた直後〉の歌詞はとても感情が乗っていたし、曲も立っていました。貴方はきっと、私がいたらダメなのだと本気で思いました。貴方の1ファンとして、そして貴方を愛している1人として、自分が夢である音楽の邪魔になっていることは苦痛で耐え難いことでした。また1度でいいから、貴方が本気でやりたい音楽を聞かせて下さい。

彼女の手紙には、メンバーの士気が下がっている理由も、俺が売れない理由もすべて載っていた。全て分かっていたのだ。それを別れずに話し合ったとして、俺は何も変わらないことも。失恋ソングを書こうとペンを手に取るが、何も書く気が湧いてこない。売れたら戻ってきてくれるだろうか、と彼女が絶対に嫌がるである思考が頭を巡る。失恋ソングを書くのはやめた。俺が夢を取り戻す為の曲を書くことにした。彼女のことは歌詞にほんのり入れるつもりだ。彼女のおかげで俺はまた、スタートラインに立つことが出来たから。きっと、彼女バカな俺は立ち直るのに時間がかかるだろうけど、いい曲が出来るならその方がいい。

曲のサンプルをバンドメンバーに送り付ける。こんなバカな俺だけど、また一緒に夢を目指して下さい。と一文を添えて。

5/7/2025, 9:25:28 AM