ゆかぽんたす

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大事な人を失った時って生きる気力を失いたくなる。冗談抜きで俺も一緒に連れてってくれよ、って叫びたくなる。たとえ別れの時が来るのが分かっていたとしても、それを受け入れるのって結構キツイもんだよな。“出会いの数だけ別れはある”って、誰が言い出したんだか分からない言葉があるけど。当事者になったら全然素直に受け入れられないんだよ。そんな、ポジティブに人の死をまとめあげんな、って思ったよ。一期一会とか、まだそっちのほうが納得いくかもしれない。

まぁ何にしてもアンタはもう帰って来ないわけで?俺を残して何してんの、今頃。まさか優雅にあっちで酒盛りしてんじゃねーだろうな。俺がいないからって昼夜関係なく飲んだくれてるんじゃねぇか?つうか、あっちの世界にも昼と夜があるのかな。こっちはまだ真っ昼間だ。アンタの嫌いな太陽が、今日もいい感じに輝いてるよ。
「安らかにな」
持ち合わせてきたウィスキーの瓶を眼の前に置く。アンタが好きだった銘柄だ。瓶の向こうには墓標があって。そこには間違いなくアンタの名前が彫ってある。それを見る度、嘘じゃないんだって言われてるみたいで嫌な気分になる。今でもどこかで、アンタが生きててくれたらいいのになって思いたいのに。そんな妄想すらさせてくれないほど、石に刻まれたアンタの名前が生々しいよ。死んでるのに生々しい、って、笑っちまうよ。
「今日は特別だぜ?」
瓶の蓋を開け静かに墓標にかけてやる。とくとくとく、と懐かしい音がした。太陽の下で黄金色の液体が石の表面を滑り落ちる。美味そうに酒を飲んでた頃のアンタの顔が浮かぶ。
少しはアンタに恩返しできただろうか。まだまだ返し足りないから、たまにこうやって、酒を浴びせにここへくるよ。
「乾杯」
俺とアンタの、永遠の友情に。

11/26/2023, 7:57:26 AM