『夢へ!』
早春の候、という言葉を皆様はご存知だろうか。
読み方はそうしゅんのこう……らしい。明確な時期は定められてはいないけど、主に二月上旬の立春から三月中旬まで使用する……らしい。
「早春の候の最後の漢字とか絶対読み方『そうろう』でしょ」
「お前は今を何時代だと思っているんだ?」
私の意見を幼馴染の煌驥に言ったら馬鹿にされました。解せぬ。
みんな手紙の最初の候をそうろうって読むでしょ? え、読まない? なら貴方は日本人ではありません。
「お前以外の全て日本人に謝れ。お前が間違えてんだよ」
「私は! 間違えていない!」
「どこから来るんだその自信は」
「この天才小夜ちゃんの優秀な脳からだよハート」
「自分でハートって言うなよ。それに手紙の書き方小テスト赤点の小夜さんがそれを言う資格はない」
「ぐっ……」
確かに私はテストで赤点を取ったけど……というか赤点というなら前に数学と英語も取ったけど……!
「テストの結果だけで判断する君のような馬鹿な人間にはなりたくないね!」
「お前の今日の夕食もやし二本と煮干しな」
「この度は貴方様に失礼な事を言ってしまい、大変申し訳御座いませんでした。靴舐めでもなんでもするので今日の夕食は私の大好物にしろ」
「最後図々しいし人間としてのプライドは無いのか」
「無いです」
「即答か」
はぁ、とため息を吐きながら「しょうがないな」と呟いている男の名は清廉煌驥。
そんな軽口(私が謝罪しなければ本当に夕食が終わっていた)を叩き合えるくらいには仲の良い、そしてなんやかんやで優しい自慢の幼馴染だ。勉強や運動、料理だって出来るんだぞ。
ちなみに普段は煌驥に勉強を教えて貰えるお陰で赤点は取っていない。小テストや数学達は煌驥の体調不良で教えてもらえなかったからだ。私は悪くない。……ごめんなさい。
「おい小夜。もうそろそろ確認しに行った方が良いんじゃないか?」
「……あれ、もうそんな時間?」
私はリビングのソファから立ち、自室へと向かう。
「え〜と、私のプログラムちゃんは大丈夫かな〜」
多分読者の皆様から見た私の印象はプライドが無いテスト赤点のカスだと思われているだろう。……泣きたくなってきた……
まあそれはともかく! 実は私には秘密があるのです。これを知っているのは煌驥、あと私と煌驥の両親くらい。
私は数年前に起業した。今では結構大きな会社になっていると思う。興味ないから今どれくらいかわからないけど。
さっき私がゆっくりしていたのはもう仕事を終わらせていたから。ウイルスなどの不安要素は自動的に排除するプログラムを作ったし、社長だけど仕事量もそんなに多くないから楽なものだ。
お金も一応稼いでいるし、現在の生活面での不安要素は無い。
けど、私には絶対に叶えたい夢がある。それも出来るだけ早く叶えたい夢が。
清廉煌驥。小さい頃からずっと一緒にいた、私の大切な人。
煌驥と私はまだ幼馴染。そう、幼馴染なのだ。私が一人暮らしするのに家事が出来ないと心配した双方の両親が煌驥との同棲を提案した。……いや、してくれたのに。
私は未だに踏み出せない。チキン? 臆病者? なんとでも言え。あいつは感情の起伏が薄かったり表情に出なかったりで好かれている自信が無いんだもん。貴方達にはわからないだろうよ!
将来は私がお金を稼ぎ、家で煌驥とゆっくり過ごすという未来を望んでいるが、今の私では駄目だ。と言うか煌驥と居れるならもうなんでもいい。会社立ち上げたのも煌驥と暮らしながら手っ取り早くお金稼ぐ方法がこれだったからだし。
「打倒煌驥! 私は突き進むぞ! 夢へ!」
「俺を殺す気か?」
「私はチキンじゃない!」
「お前は人間だろう」
※※
「毎度、お前には世話を焼かされる」
「えへ」
「えへちゃうわ」
掃除、洗濯、料理などなど、人が生活していく上で必要な事が何も出来ない幼馴染の小夜。
そんな彼女を支える為、俺、清廉煌驥は昔から両親に色々なことを教わってきた。
小夜は中学の時に飛び級をし、その後少し経ってから起業した。
それなりに業績も安定し、最近はなんか凄いプログラムを作って「自由の女神とは私のことよ!」とか意味のわからないことを言っていた。
毎日他の社員数人分のタスクをこなす(前に小夜と買い物していた時に会った社員さんにこっそり聞いた)小夜に俺が出来るのは家事などで請け負い、支えることだけ。
いつか小夜に認められるような人間になり、告白するのが今の俺の夢だ。
一応就活はするがそこら辺は小夜と相談をするつもりだ。……まあ、まだその土俵にも立てていない訳だが。
小夜のように、俺も夢を叶える為に頑張るとしよう。
4/10/2025, 2:22:24 PM