メガネの人

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さて、問題。

“ある少年がいた。彼は戦争により、両親を早くに亡くしてしまった。
幼い日々を、孤独に生きてきた少年は願った。

『世界から争いがなくなりますように』

成長した彼は科学者の道を進み、世界を平和にするために尽力した。

その結果、世界は「平和」になった。

彼は、何をしたのだろう?”


ある人は、彼を説明するのにこう言った。

“彼は、科学の力でもって、世界にはびこるあらゆる争いを無くそうとした。

そのためには、あらゆる力を超えたものが必要だ。どんな争いをも終止させることのできる、強大な力が。

彼は、「核兵器」を生み出した。

世界は「平和」になった。”



またある人は、彼を説明するのにこう言った。

“彼は、有名な科学者となり、様々な成果を上げた。

それらは人々の生活を豊かにした。
苦労も、悩みも、煩わしさも、科学が解決してくれた。
便利な生活は、人々から、争う理由を消し去った。

彼は、「豊かさ」を生み出した。

世界は「平和」になった。”



また別の人は、こう説明した。

“彼は、小さいころの記憶を忘れることが出来なかった。
家族を失った悲しみから、救われることがなかった。

だからこそ、人一倍、平和を願う気持ちが強かった。
日々、祈り続け。日々、訴え続け。日々、願い続けた。
誰よりも、平和が叶うことを望んだ。

そんな彼を見た人々は、心を動かされ、平和の歩みは、彼を中心に広がっていった。

彼は、「希望」を生み出した。

世界は「平和」になった。”



物事の善し悪しを決めるのは、いつだって他者だ。
物事の真実を知る当事者は、善も悪も決定することは出来ない。
それを、この問いは教えてくれる。


ちなみに、彼自身はみずからをこう説明した

“わたしは、争いのなかに生きていた。
両親をうばわれ、孤独な幼少期を過ごし、不穏な毎日だった。


けれど、それは「仕方のないこと」だ。

その時代が、そうだからだ。
争いの時代に生きているならば、争いのために生きることが、最適だ。
だから、わたしは科学者を選んだ。

そうすれば、争いに貢献できるから。

いち早く、「平和」を求めるならば、争いが終わればいい。
自ら争いに踏み入って行くことこそ、最適だ。

争いの兵器を生み出し、早くこの世界に「平和」を。

優れた兵器はその使用者を助けた。
戦地で功績は称えられ、重宝された。
それも、各地で。

優れた兵器の産出国として、国は豊かになった。もう国内で争う必要もなくなった。

そうなっても、常にわたしは胸に抱いていた。

早くこの世界が、「平和」になるように、と。



……これでよかったのだろうか”





彼の、善悪を決めるのは、本人ではなく、やはり他者なのだ。

4/27/2023, 2:46:24 AM