かたいなか

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冬囲い、おこた、ストーブ準備にプランターの冬越し。冬支度にも様々、あろうかと思います。
今回は不思議な、言葉を話すハムスターの、冬支度のおはなしをご紹介。

最近最近の都内某所、某アパートに、藤森という雪国出身者が住んでおりまして、
藤森が時折つまんでいるミックスナッツのボトルの中に、ハムスターが1匹。
「ああ、藤森、やっぱり君が買ってくるナッツは、
最高だ、良いロースト加減、至福……」
ももも、むもももも。
恍惚な面持ちで、頬袋を膨らませておりました。

「自分で買ってくれば良いでしょう」
「僕を騙そうったって無駄だよ藤森。
きみ、市販のミックスナッツに、なにかブレンドしてるだろう。僕には分かる」
「何もしてませんが?」

言葉を話すハムスターの名前は、カナリア。
カナリアは「ここ」ではない別の世界の、世界線管理局という厨二ふぁんたじー組織で、
法務部の執行課、特集情報部門に所属し、とっとことっとこ働いている、高給取り。
要するに、情報収集のエージェントなのです
が、

どれだけとっとこカナリアが、
インテリジェンスなエージェントワークをしても、
ハムスターは、ハムスターなのです。

寒くなるとフカフカモフモフを集めたり
冬に向けてナッツを貯蔵したり
とっとことっとこ、冬支度を始めるのです。

カナリアは藤森の部屋に、
上質で美味で香りの良いミックスナッツと
最高の配合の多種ナッツ入りグラノーラと
なにより雪国出身の藤森が信頼している、保温性バツグンな某最高級〼ウォーム毛布があることを
バッチリ、知っておったのでした。

「ナッツも良いけど、んんん、この〼ウォームダブルスーパー毛布も、持っていきたい」
「自分で買ってください」
「分からないやつだなぁ藤森。
ハムスターが、お店に行って、『コレください』って毛布を買えると思うかい?

それに、僕が君の毛布をズッタズタにすれば、君も毛布を新調する口実ができるじゃないか」
「そもそもほぼほぼ新品なので結構です」

なんだいっ。つれないなぁ。
とっとこカナリアはぷいぷい、ぷくぷく。
ミックスナッツのボトルの中で、自分の冬支度を続けます。頬袋にナッツを詰め込みます。
「あっ、藤森、そこのハニーナッツも、美味しそうじゃないか。ちょっと僕におくれよ」
「ハニーナッツ??」
「あるじゃないかハニーナッツ。ほらそこ」
「え? えっ??」

ハニーナッツなんて、買ったおぼえ無いが?
カナリアが見ていた場所を確認しますが、やっぱりそれらしき物は見当たりません。
「カナリアさん?」
どれを見てハニーナッツと思ったんです?
藤森が振り返ると、
「 カナリアさん 」
おやおや、
ミックスナッツのボトルの中身がごっそり減って
藤森お気に入りの最高級〼ウォーム毛布も1枚
双方、キレイに、消えておったのでした。

「……」

あのな。カナリアさん。
藤森は大きなため息をひとつ、吐きました。
冬支度にしても、だな。
ナッツは諦めが付くけれど、最高級ウォーム毛布は、一応、いちおう、そこそこ、まぁまぁ、
いちおう、値段が値段、ではあったのでした。

「買ってくるか」

それにしても、カナリアさんはハムスターの小さな身体で、どうやって毛布を持ち出したのだろう。
藤森は気になりましたが、答えは出ません。
仕方が無いので外出の、準備をして再度息を吐き、
外に出ようとしたところ、

「まてっ、待て、ネズミ!」
「ぎゃあああ!!たすけて藤森、フジモリ!!」

因果応報かこれも冬支度か、
藤森の部屋にちょうど遊びに来た稲荷神社の稲荷子狐に、とっとこカナリア見つかったらしく、
逃げ回って、藤森に救援を要請して、
バシン、あふん。
最終的に、キツネパンチを食らって頬袋の中身を、
盛大に、ぶちまけてしまったとさ。

「ふじ もり」
「先に毛布を返してください」
「かえす かえす たすけて ふじ……」

11/7/2025, 9:57:24 AM