最後の手紙
世界が終わるまで、あと七日。
政府の発表は突然だった。科学者たちが長年警告していた小惑星が、ついに地球に衝突する軌道に乗ったという。回避は不可能。人類は、滅亡を受け入れるしかなかった。
東京の片隅で、郵便配達員の佐藤遥は、最後の週をいつも通りに過ごすことに決めた。彼女は毎朝、赤い自転車に乗って手紙を届ける。誰もがスマホで連絡を取る時代に、手紙を送る人は少ない。でも、今週だけは違った。
ポストは溢れていた。別れの言葉、感謝の気持ち、告白、懺悔。人々は最後の瞬間に、言葉を紙に託した。
遥は配達先で、泣きながら手紙を読む人々を見た。ある老人は、50年前に別れた恋人からの手紙を握りしめていた。ある少女は、父親に宛てた「ありがとう」の手紙を空に向かって読んでいた。
六日目の夜、遥は自分の部屋で一通の手紙を書いた。
「お母さんへ。
あなたが亡くなってから、ずっと寂しかった。
でも、あなたが教えてくれた“人に優しくすること”を、私は守ってきたよ。
最後の瞬間まで、私は誰かの心を運び続ける。
ありがとう。愛してる。」
七日目の朝。空は赤く染まり、街は静まり返っていた。
遥は最後の配達に向かった。手紙の宛先は「未来の誰かへ」。
彼女は丘の上に立ち、手紙を風に乗せた。
「もしも、誰かがこの世界の記憶を拾ってくれるなら。
私たちは、愛し合っていたと伝えてください。」
そして、空が光に包まれた。
お題♯もしも世界が終わるなら
9/19/2025, 6:45:56 AM