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「こうちゃをどうぞ。クッキーもありますよ」
小さなプラスチックのカップとソーサーがテーブルに置かれる。ダンボール箱をひっくり返した簡易テーブルだ。天板にあたる部分には、クレヨンで沢山の花が描かれていて、テーブルクロスのようだった。
クッキーを模したプラスチックの塊がふたつ、ティーカップの隣に差し出された。
「おかわりもありますからね」
ティーポットをテーブルの真ん中に置いて、君はカップに口をつけた。見えない液体を飲み干してから、僕のカップを手に取ると、僕の口元に寄せて飲ませてくれる。

君の3歳の誕生日に君のところへ来てから2年が過ぎた。
クマのくーちゃんという名前をもらって、おでかけのときも、眠るときも、いつでも一緒だった。本当は幼稚園にも一緒に行きたかったけれど。
腕が取れかかったときは不安だったが、君のママが繕ってくれると君はとてもうれしそうに僕を抱きしめてくれた。

二杯目の紅茶を飲もうとしたとき、君は慌てたようにカップをテーブルに放り投げた。
キッチンの方へと駆けていく。
「とどいた?わたしの?」
荷物を抱えたママの足元で、君はダンスするように飛び跳ねる。
「それ、わたしのランドセル?あけていい?」
「いいわよ。背負ってみて。写真をおばあちゃんに送りましょうね。お礼を言わないと」
「あお!」
「好きな色でよかったねえ」
「うん!」
君はもう、僕との楽しいお茶会のことなど忘れてしまって、ペールブルーのランドセルに目を輝かせている。
僕の親友―――春にはきっと、口のきける新しい親友を見つけてしまう。


『ケーキをやいたのよ、たくさんたべてね』
『すごくおいしいよ』
『おかわりもありますからね』
『ねえ、僕、君といられてとっても楽しい』
『わたしも。ずっといっしょにいようね』
『ずっとずっとね』
倒れたままの君のカップ。それを見つめながら僕は、君との時間を夢想する。


2/28/2024, 2:47:14 AM