君と一緒に
「もう大丈夫、僕は君を泣かせたりしないから、ずっと君と一緒にいるよ」
「う、うぇ〜ん、けいちゃんありがとう」
そう言って|可憐《かれん》の頭を撫でた後優しくギュッと抱きしめてくれたのは幼馴染みの|慶次《けいじ》だった。
「けいちゃんは何時も優しいね」
「僕はずっと可憐を見ているからからね……だから可憐のことを泣かせる男が誰であろうと許せないんだよ!」
けいちゃんは何時も可憐を見守ってくれていて、幼馴染みの癖に可憐の保護者のような存在だった。
「愛してる!」
憧れていた|大河《たいが》先輩にそう伝えられた時、その言葉を本気で信じたのが駄目だったのだろうか、先輩とは半年も付き合ったのに、こんなにもあっさりと捨てられてしまったのである。
「僕たちもう別れよう」
「な、何でですか?」
「理由何てないよ、ただなんて言うのかな……可憐は可愛いよ、僕には勿体ない程」
「だったら、別れなくてもイイんじゃないでしょうか?」
「でもね、こらはもう決めたことだから……ごめん」
真実を答えてくれなかったけど、可憐には何が原因なのか知っていた……そう、大河先輩に好きな人が出来たこと、その子と一緒に手を繋いで街を歩いていたこと……なのに責めることはしなかったのはそれをすることでもっと嫌われたくなかったから。
だから、いとも簡単に捨てられ、傷つけられてぽっかり空いた心の穴はきっと中々埋まることが出来ないことだろう。
「愛してる」
あの時、そう伝えられた言葉に疑いが一切無かった。
あの時、そう伝えられた言葉に嘘偽り何て無かった。
あの時、そう伝えた言葉は本気だったのでしょうか?
あの時、そう伝えた言葉は軽い言葉でしたか?
もう生きてるのが嫌になっていたのだろうか、気付けば電車の線路沿いを歩いていて、そして遮断機の降りた棒を潜り抜けようとした矢先のこと、急に後ろから「可憐」と叫ぶ声が聞こえて前に進む足がパタリと止まり、引き返すことが出来たのだった。
「け、けいちゃん……ど、どうかしたの?」
「嫌、その、まだ家に帰ってない様子だったから……」
家が隣同士のけいちゃんは、可憐の部屋の灯りが何時になっても付かないのを怪しんで探しに来てくれていたのだという。
「よ、良かった、可憐が無事で!」
「な、何でこんなとこに居るんだろ……」
頭がまっしろになっていたから、どうして此処にいるのかよく分からなかったけど……奇跡的に可憐の名前を呼んでくれたのがけいちゃんで良かったと思えた。
それからは、けいちゃんにおぶられながら家路を帰り、そしてその日はけいちゃんの家に泊まることになったけど、父も母もけいちゃんの家なら安心だと言って了承を得ることに。
不安定になっているのか、けいちゃんの部屋で安堵してか涙の止まらない可憐をずっと優しく抱きしめ、頭を撫でてくれていたので、可憐は深い眠りについていた。
「おはよう、ご、ごめん……良く覚えてないの」
「うん、大丈夫だよ。 可憐の親には昨夜泊まること了承済みだし、僕はずっと可憐……君の傍に……君と一緒にいてあげるから……」
大丈夫、気にしないでと言ってくれるけいちゃん。
甘えてイイのだろうか……。
でも、また何時も通り甘えてる。
「別れたんだろ、知ってるよ」
「えっ!?」
「当たり前だろ、僕はずっと可憐を見てるんだから」
「う、うん……別れちゃった……」
けいちゃんは優しい目で可憐を見つめると、泣きたいだけ泣けばイイって胸を貸してくれた。
「ありがとう」
「イイって……でもさ、もし可憐が良かったら、その、前に可憐に振られた僕だけど……つ、付き合わない?」
「えっ……!?」
「いきなりは狡いよな……ごめん……今のはデリカシー無かったって反省してる、でも真剣だから……何時までも待ってる」
「……」
それから暫くの間、二人には沈黙が続いた……。
「ねえ、けいちゃん」
「ん?」
「けいちゃんのこと信じてもイイの?」
「当たり前だろ、嘘付いたことあったか?」
「無い! けいちゃん嘘つかない」
「だろ、だから信じて貰って大丈夫だから……」
「うん、分かった!」
それから一週間が経過して、一月が経過して……冬が来て、大晦日が来た。
日付が変わってから可憐がけいちゃんと一緒に近くの神社に夜中初詣に向かう途中のこと。
「可憐……気にしないで大丈夫だからな、いつか僕が必要だってなった時、また言ってくれればいいから、僕はこれからも可憐……君と一緒にいるよ
「うん、これからも宜しくね……えへへ」
まだけいちゃんに答えは伝えてない、そのことが何だか申し訳無くも感じていたけど、まだ等分空いた穴が塞がるのに時間が掛かりそうなのだ。
でも、けいちゃんは一緒にいてくれるというので、可憐はけいちゃん甘えてこれからも宜しくと伝えたのでした。
――いつか穴が塞がったらその時は……。
――三日月――
1/6/2023, 3:20:38 PM