「作りすぎちゃったんで、どうぞ」
眉尻を下げて、申し訳なさそうな顔で差し出された特大から揚げ。でかすぎて台湾の、ほーだいじーぱいぱいみたいな名前の鳥の揚げ物みたいになっている。弁当箱に入っていたとは思えないサイズ。重さにお弁当ピックがしなっている。
おれはごくりと唾を飲む。
「あ、もしお腹いっぱいだったら無理しないで下さいね」
お腹はいっぱいである。でも無理したい。絶対美味しい。黄金色の衣が輝いている。これに衣替えしたい。でも駄目だ。おれは昨日ライザップに入会したんだ。ちょこっとじゃない方、ガチザップの。こんなのに衣替えしたら決意が揺らいでしまう。黒背景の暗めのスポットライトでうつむいて台の上で回り続けないといけなくなる。
追い討ちをかけるように、彼女はから揚げをずいと寄せてきた。めっちゃ良い匂い。スパイスの。
「さすがに作りすぎじゃない?」
昨日ダイエット始めた話をしたはずなんだけど。
故意だと思う。故意だよこれは。
彼女は声をひそめて、
「作りすぎちゃえ、と思って」
なんてことを。
「いやいやいや」
「やめておきます?」
じっと見つめてくる目には、期待が込められていて。
おれは観念して、から揚げの刺さったピックを受け取る。おっもいなこれ。
一口かじると、冷めているのに揚げたてみたいだ。カリカリの衣、ふわふわの鶏肉。
「うっま……」
「痩せなくて良いですよ」
彼女はにっこり笑う。
【お題:あなたへの贈り物】
1/23/2025, 10:08:58 AM