にぼしカラフル

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私の部屋に置いたままの荷物を取りに戻ったら、その足で実家に帰省する予定だという君の背中には、少し雪が積もっていた。相変わらず気遣いという言葉を知らないようで、私のアパートの廊下には雪が舞う。コートも脱がないくせに、足音だけは遠慮がちなところを、すごく「らしいな」と思う。廊下を抜けて迷いなく私の寝室に入るやいなや、「あった」とほんのり上ずった声を上げた。くるりと振り向いて、「この本、作者のサイン付きだったから」とホッとしたような三日月の目。本の横には、こうなるとは露ほども思っていなかった頃の二人が屈託なく笑っている写真立てを飾っておいたのに、君は目もくれず、また元来た道を歩き始めた。靴を履く君の肩に揺れる雪が、もう透明なしずくになっている。雪と雫の関係にぼんやりしていると、君が「じゃあ、良いお年を」と告げつつ扉をするりと抜けて消えていった。あたためていた私のさよならが、年末のあいさつに負けた瞬間、もうどうしたらいいか分からなくなって、ただうずくまって泣いた。

12/31/2022, 10:26:54 AM